いつか出会ったストレンジャー

登場人物紹介

桜坂 和義(さくらざか かずよし):
関東のN大学に通う大学生。千葉県柏市在住。香川県出身で言葉遣いはとても訛りが酷く、西日本全域の様々な方言が混ざっている。一人称は「わし」で二人称は「自分」。父親は幼少の頃他界と母親から聞かされている。

山崎 しづる(やまさき しづる):
和義と同級生。千葉県在住。大分県出身だが、割と綺麗な標準語を話す(イントネーションは若干おかしい)。が、油断すると言葉の端に方言が出る事がある。自分の名前をあまり気に入っていない(本人曰く「おばあちゃんみたい」)らしく、知り合い全員に「しーちゃん」と呼ぶ事を強制している。一人称は「うち」。

檜山 幸男(ひやま さちお):
和義の友人。男性。通称さっちん。

日高 紀子(ひだか のりこ):
しづるの友人。女性。さっちんの彼女。


1.始めてって気がしない見知らぬ人より

物語の最初は、やはり出会いの場面から。あれは、入学式の日、そう、入学式が終わってキャンパスでも色々散策してみるかと会場を後にしようとした時だった。背の低い可愛らしい女性に、わしは突然声をかけられたのだ。

「始めまして、うち、山崎しづる。」

「は? ・・・・あ、はぁ。どうも。」

「あなたのお名前は?」

「あ、はぁ、桜坂和義と言います。」

「ね、今から時間ある? ちょっとお茶しましょうよ。」

「え? あ、いや、わし、いえ僕、いやあのオレ、今から色々キャンパスを見て回ろうかと・・・・。」

「いいじゃない、行きましょうよ。ね、カズー。」

「カ、カズー!?」

「かずよしだから、カズー。」

幼少期にもそんな呼ばれ方しなかった。まさか大学生にもなってしかも初対面でそんなあだ名を付けられるとは・・・・。

「あ、あのー。やまざきさん?」

「や、ま、さ! き、九州では「さき」ってにごらないの。それに、うちの事はしーちゃんって呼んで。」

「え・・・・いや、あの、突然そんな事をおっしゃいましても・・・・。」

「しーちゃんって呼んで。」

「いや、そういうのはもう少し仲良くなってからの方が。」

「し! い! ちゃ! ん!」

「あの、せせせめて、しづるさん、とか。」

「しーちゃーん!」

「・・・・しーちゃん。」

「はい、じゃあ行きましょ。いやぁ、あなたとは初めてって気がしないのよねぇ。」

「いやあの。」

「もぉ! 何ぼけっと突っ立ってんの? さっさと行きましょ。」

「は、はぁ。」

思えば強引というか自分の意思に忠実というか、それでいて憎めない、本当は、わし自身も初めてという気がしない不思議な子だった。あいつは同じクラスの全員に本当にしーちゃんと呼ばせ、ついでにわしの事も全員にカズーと呼ばせる事にしやがった。それから2年とちょっと、わしは、バイトで生計を立てながらなんとかやりくりし、とうとう念願のバイクを購入した。

「ねーねー、カズー! バイク買ったんでしょー。乗らせてよー。」

「いやじゃボケ、大体、自分中免持っとらんやろが。」

「いいじゃんケチー。ほら、あのー、あれでしょ。エンジンかけたまま、後ろのタイヤ回したまま、前に進まないのがあるじゃない。あれでいいから、ね?」

何を言っているのだこの小娘は・・・・ああ、そう言えばこいつ、ちょっと前に中免取るとか突然言い出して、どこかの教習所に見学に行ったって言ってたな。確かに中免の教習は最初センタースタンドを立ててギアチェンジの練習をするけど・・・・。

「残念ながらわしのバイクにセンタースタンドは無い。」

「なーんだカズー使えねー。」

「・・・・言いたい放題やな自分。仕方ないやろ、安モンなんやけん。それでも一応コミコミで40万するんやで。」

「40万!? どこにそんなお金持ってたん?」

「いや・・・・そんくらいは持っとります。」

「いっやぁ~ん、シャチョさん、おっかねもちぃ~。ね、ね、うち欲しい指輪あんだけどさ。」

「買いませんよ?」

「うちとカズーの仲じゃん。」

確かに、初めて出会ってからまだ2年そこそこなのにも関わらず、わしとしーちゃんは生まれた時から一緒に居たくらいの仲の良さになったと思う。本当に不思議というか、変な子だ。

「どんな仲でしたっけ。」

「うぅぅん、こんな可愛い彼女にアクセサリーの一つも買ってあげないのぉ?」

いやいや、彼女じゃないぞ。どこまで仲良くなろうとそれは無い。

「ワタ~シ、あなたと付き合ってる覚え無いアルね。」

「ケチ!」

「いやいやいやいや! なんでわしが自分に指輪なんかプレゼントせんといけんのや!? おかしいやろ、話として。」

「うちの事好きなくせに。」

「好きは好きですけどね・・・・そんな問題やないやろうが。」

「買って買って買って買って買って~! 買ってくんなきゃヤダ~!」

「んな事言うたって・・・・恋人でもないのに指輪プレゼントする方がおかしいでしょうが。それとも、自分、わしの彼女にでもなるか?」

「うん、彼女になる~。」

「バカ。そんなんで彼女になって、指にはめた指輪が光るのか。そんな小さなもんで未来ごと売り渡す自分が悲しいぞわしは。」

(・・・・それ、小説に載せるにはヤバくない?)

(・・・・ぎりぎり大丈夫やろ。微妙に変えとるし、近畿地方に住んだ事無いし。)

「うち、三ヶ月前誕生日だったんだけどな。誕生日プレゼント、そういえばカズーから何も貰ってないな~。」

「・・・・かすりもしとらんやん。せめて先週でした~とかやったらまだ分かるけど。」

「先週でした~。」

「自分の誕生日は6月。今は10月。間違いないよな?」

「バカね~もう。女の子っていうのはね、誕生日プレゼントは年中無休で受け付けてるものなのよ。常識よ。」

「知らんわそんな常識。」


2.私を千葉県最南端に連れてって

今日は土曜日、天気、晴れ。どっか出かけようか。でも11月半ばともなると外もだいぶ寒いしな・・・・バイクも良いが厚着するのはなんとなく面倒な朝が訪れる。買って一週間ほったらかした無塩バターがあるし、今日は家でクッキーでも焼こうかな。

ちゃららちゃんちゃちゃん、ちゃららちゃんちゃちゃん、ちゃららちゃんちゃちゃちゃちゃ、ちゃん。ん? こんな朝っぱらから電話か。ちなみに着メロはエンターテイナー。・・・・知らない番号だ。まぁ、一応出てみよう。ピッ。

「はい、もしもし?」

「あ・・・・カズー?」

・・・・あれ、聞いた事ある声だが・・・・誰だったか? カズーと呼ぶからにはクラスの誰かだが。

「ええと、すみません、どちらさまでしょうか?」

「・・・・え? ・・・・あの、うち・・・・山崎です。」

ああ、そう言われれば確かにしーちゃんだ。あまりに落ち着いた・・・・と言うと語弊がある、沈んだ声なので分からなかった。まぁ、そりゃこいつだって悩む事くらいあるわな。

わしはしーちゃんの電話番号は知らないのだが、向こうは知っている。何度かかかってきた事があって、その度に電話帳に登録して良いか聞くのだが、その度にダメと言われるので登録していない。こいつごときにそんな気を使うのもと思うが、一応女の子相手に許可も得ず勝手に登録するような男では無い。が、それなら非通知でかけてこいよな。こっちゃそんなもんを着信拒否するような面倒な設定はしない。

「どした? 何か・・・・その、元気ないな。」

「あの、あのさ、どっか行きたいな。バイクでどっか連れてってよ。」

「は? ああ、ええけど・・・・珍しいな、自分がそんな事言い出すなんて。ま、ええわ。あのー、もうだいぶ冷えるし、バイク乗ったらもっとやけん、かなりぬくい格好しとってくれや? 今から家まで迎えに行くわ。」

「うん、待ってる。」

「着いたら~・・・・あの~、この電話番号、着いて連絡入れるまでは消さんといてええ?」

「うん、ね、登録しといて。電話帳。」

「は!?」

一体全体どういう風の吹き回しだろう。おかしい。今日のこいつはとてつもなくおかしい。

「ほら、連絡はつく方がいいでしょ?」

「いや、そらそうやけど、ええの?」

「うん。」

今まで番号通知でかけてきといて登録を拒否ってたのは何だったの。まぁ、登録して良いっていうのなら、こちらとしても断る理由はない。

「分かった。ところで、フルフェしかないけどええ?」

「フルフェって何?」

「フルフェイスヘルメット。バイクは後ろ乗る奴もメットせんといかん。」

「うん、大丈夫。昔、原付乗ってた時そうだったから。」

ううわ、こいつ原チャでフルフェですってよお聞きになりました奥さん。なんて事はさすがに言える雰囲気ではないので飲み込む。

「ん、分かった。ん~、こっからそこまで20分くらいかかるかな。」

「うん、待ってるね。」

何か変な事になっちまったが、乗りかかった船だ。それに一応大親友としては、元気付けてやりたいし、な。何があったかは知らんけど。


しーちゃんが住んでいるマンションの近くの交差点で信号待ちでとまる。と、彼女はもう既に下に降りてきていた。もこもこした物体が近寄ってきたので歩道に上がって停車する。良い子のみんなはマネすんな!

「お待たせ。」

「ううん。ごめんね、うち・・・・。」

何か言いたそうにするが、続きが出てこない。わしはそれを遮るように、少し大声で独り言のように話す。

「何があったんかは知らんしどうでもええ。どうせヒマしとったし、一人でどっか走ろうか思いよったとこやし、ついでやし。」

「カズー・・・・。」

「今日一日は姫君のおそばにおりまするゆえ。ええと、どこか、行きたい所はございますか? しづる姫。」

おどけた口調でそのまま続ける。押しが強いようで実は凄く引っ込み思案なこいつに遠慮させるのはイヤだから。

「あはは、ありがと。ん~、海が見たいな。うち。」

「海かぁ・・・・。」

千葉県の柏松戸界隈は、関東平野のド真ん中にあり、どっちに向かっても海が遠いという海を見るのが大好きなわしにとって大層恵まれた環境にある。

「わしのバイクやとだいぶかかるで? 東京湾やったらすぐやけど。」

「えー東京湾なんてヤダーきちゃなそう。 太平洋が良い~。」

「東京湾に謝れ。あと・・・・最低でも3時間かかるで? 自分、ケツ乗った事あんの? これ、そんな快適なバイクやないし、だいぶつらい思うで。」

「無いけど、でも、大丈夫。ねー、今日は姫の言う事何でもきくって言ったじゃん。心配ないからさ、ね~連れてってよ~。」

「いや・・・・一日付き合うと言っただけで言う事きくとは一言も・・・・ま、ええわ。分かった・・・・ええで。でもあのー。あのな。別に、別にエッチな意味やないんやで? 自分と密着したいとか、胸を押し付けて欲しいとかそんな事思うてる訳やのうて、慣れるまではしっかりぎゅってわしに抱きついとってくれな?」

「ヤダーカズーえっち~。えへへ、冗談、分かった。」

「んー、ちょっと待て、自分これかぶってみ。」

ヘルメットを渡す。フリーサイズではあるけれど、やはりほんの少しだけ緩い。これじゃぐらぐらして危ないなぁ・・・・。わしは巻いていたマフラーを脱ぎ、しーちゃんに巻きつける。

「ちょっとメット緩いやろ。あむないし、首筋んトコ風当たって冷えるし、これ挟んで固定しとき。」

「ん、ありがと。でも、カズー寒ないん?」

「わしは慣れとるわ。ええと、こっから一番近いとこと一番お勧めなとこ、どっちがええ?」

「お勧めな方。」

「おう、ほな行こか。途中、とまって欲しかったら左手でぽんぽんぽんって三回わしを叩いてな。急ブレーキかける時はわしがしーちゃんの右手を叩くけんな。急加速をするつもりは無いけど、その場合も右手を叩く。速ければブレーキ、遅ければ加速な。ま、とにかく、ぎゅって抱きついとって。」

「ん。」


やっぱり二人乗りは感覚が違う。どうしても後ろを気にしてしまうので、あまり速度が出せない。無謀だったかな。それ以上にしーちゃんは慣れていないので、休憩を多く入れて休ませんとな。そんな訳で、市原のコンビニにて休憩を入れた。

寒い寒い。いやぁ、ぬくもりも今じゃ100円玉で買えやしない。世知辛い世の中になったもんだ。

「ふぅ。」

「お疲れ、ほら、お茶。」

「え~うちもコーヒーが良い~。」

「お子様はお茶にしとけ。コーヒーは大人が飲むもんや。」

「お子様ちゃうもん。うち、大人の女性やもん。」

「あっはっは。ま、悪かった。お茶の方がええか思うたけど、次はコーヒー買うたるわ。しょんべん行っとくか?」

「まだ大丈夫。ここはどこらへん?」

「まだ市原。ここから袖ヶ浦、木更津、君津、富津、館山と抜けて白浜まで行くで~。まだ半分も来とらんな。」

この辺は国道16号も広いがすぐにまた狭い国道になる。やはり可能な限り高速道路に乗るか? しかし、そうするとしーちゃんがつらいか。

「移動にあんま時間かけとれんし、こっからは上乗ろうか思うけど大丈夫か? さらに風に当たるけど。」

「うん、平気。もう慣れた。」

「そっか。ほやけど、上の風は半端やないけんな、マフラーをもちっと奥にしっかり詰めときな。」

「カズー、やってよ。」

「は? もう、自分はほんま「甘えた」やんなぁ。ほら、ちょっと上向いて。」

「ん。」

わしはロリコンではない(と思う)が、いわゆる「妹キャラ」というか、甘えん坊が好きだと思う。かいがいしく世話したいというか、かまいたいというか、守ってあげたいというか。そういう意味ではこいつは飛びぬけてわし好みな子だ。かと言って、わしとこいつがどうこうってのは・・・・ちょっとちゃうよなぁ?

「ほら、出来た。そう言えば、ここからちょっと行ったら海ほたる言うとこにも行けるで。それやったら割と近いけん急がんで良くなるんけど、千葉最南端とどっちがええ? 海ほたるやって一応360度海しかないで。」

「千葉最南端がええ。カズーはいつもそこに行くんでしょ?」

「うん、海ほたるは周り全部海やけど通行料の割に面白味ゼロやけんな。ほしたら上乗って超特急で行くで。」

「うん!」


「うわぁ・・・・すっご~い!」

千葉県は白浜町。千葉県の、最南端。野島崎灯台は、視界が180度以上のパノラマビューで海しか見えない。ここから日の出も日の入りも見る事ができる。

「な? ここが、一番の、お勧めの場所。ほんで、わしの、一番の、お気に入りの場所。」

「うん、すごいね。素敵。」

興奮に顔を紅潮させるしーちゃん。わくわくに抗う術を知らない子供のようだ。

「なんかベンチがあるよ。」

野島崎灯台の南には千葉県最南端の石碑があり、さらにその南、本当に南のすみっこ。そこに一つのベンチがある。

「ねぇ、あっこ座りたい。」

「ん~、人が居るし、あんまりここで時間取る訳にもいかんし、また今度な。」

「や~! ねぇ、ちょっとくらい待っても良いからさ、座ろうよ~。」

やれやれ、と時計を見る。1時前か。確かに、少しくらいなら待ってもまだ帰れない時間ではない。

「ん~。ま、ええけど。でも、無理やり退かせる事はできんし、ちょっと待ってダメやったら諦めて帰るぞ。」

幸いにして、待つこと10分程度で先客は席を譲ってくれた。

「ほらほら、早く!」

「待て待て、ここ岩肌やけん、転んだら危ないで。」

「もう! 早くって!」

「わ~ったわ~った。しゃあないのぉ。」

二人でベンチに腰掛ける。冷たい南風が頬をくすぐって潮の香りを残していく。

千葉最南端にて日の光をおがむ

「海だぁ。」

「海やのぉ。」

「海だね。」

「海しか無いけんの。」

「こんな長い水平線初めて見た。」

「この辺りを真夜中に走ったらの。半分は街灯りがぼぉ~っとついとんやけど、もう半分は完全に真っ暗なんや。まさに漆黒の闇、吸い込まれそうになるんで。」

「ふ~ん。うちも見たい。」

「あかん、そんな暗がりでここに連れてくるんは危ない。」

「見ーたーいー!」

「うるせえ。ほら、もうそろそろ退かんと他の人も座りたいんやけん。」

「やぁだぁ、もうちょっとだけ。」

「ダメ、ほら、それにもう1時やけん、帰ったら4時過ぎやで。この季節やったらもう暗がりになっとる時間や。良い子やけん言う事聞き。」

「ちぇ。は~い。ね、うち、灯台も登りたいなぁ。」

「や~け~ん! 時間無い言いよろーがー!」

「嘘だぁ、高いとこ怖いからでしょ?」

「う・・・・それもある。」

こいつはわしが高所恐怖症だと知っていて、二人で歩いている時にわざわざ意味もなく陸橋を渡ろうとしたり、やけに段差が激しい所に寄っていったりする。こんな所も容赦なく子供だ。けど、今回はそういう事ではなく、本当にただ登りたいだけのようだ。

「すぐ戻ってくるからさ、うちだけ登ってきても良い?」

「・・・・ええけど早よしいで。時間無いんはホンマやけんな。」

「は~い。」


「待ったぁ?」

「待った。このボケナスが。」

「すっご~い景色が綺麗だったよ。ほらほら見て、携帯で撮ってみたけど、写真じゃ伝わんないよね~。この、なんて言うの? そのー、実際にこの目で見た感動って言うの?」

「そりゃ良かったな。このボケナスが。」

「・・・・10分くらいしか経ってないよね?」

「30分は経っとるな。このボケナスが。」

「もー! ぼけぼけ言うなぁ!」

「帰り真っ暗になったら危ないでしょーが。わしゃあ自分の事を思ってやなぁ。」

「・・・・遅くなったら・・・・どっか泊まってけば・・・・良いじゃん。」

「あほー、今から泊まるとこなんてどやって探すねん。」

「ケータイあるし~、探しようはいくらでもあるよ。・・・・それとも、どうしても、ダメ? イヤ・・・・かなぁ?」

あ、そうか。もともとこいつが何か悩んでんのか落ち込んでんのかを慰めるというかなんかとにかく元気づけようとしてここまで来たんだった。船に乗りかかったのは、誰でもないわしが決めた事。良いや、とことんまで付き合ってやるよ。

「ん? ん~・・・・。別に、イヤでは、ないけどや。」

「じゃあ良いじゃん。ね、泊まってくって事でさ、もっと遊ぼうよぅ。せっかくさ、ほら、こんな遠くまで来たんだからさ。」

「も~、ほんっとしょうがない子。どこ行きたい?」

「やった~! ね、どんなとこがあんの?」

「ん~、泊まるにしたって今から九十九里を流すんはちぃと時間的に難しいな。マザー牧場・・・・はブルーベリーソフトクリームがうまいんじゃが・・・・今の時期は寒いし、だいぶ戻る事になる。鴨シー(鴨川シーワールド)とかか。後、今は時期外れやけど、ローズマリー公園てのがあってな。夏になると一面真っ赤なローズマリーの花壇が広がっとって、そらもうすごい綺麗なんぞ。」

「ふぅん、そうなんだ。ね、夏になったらそこ連れてってね。」

「ああ、ええよ。」

「やた! ね、鴨シー行きたい鴨シー。ほんで何か食べてどっか泊まろ。ね!」

「くす、ホンマ子供みたい。」

「うち子供ちゃうもん! 大人やもん!」

「はいはい、良い子やけんこっちおいで、行くよ。」

「っも~! バカズー!」

「・・・・うまい事言うたつもりかいな。」


鴨川シーワールドは、わしは何度か(・・・・一人で・・・・)来た事がある。なので個人的には今更感ばりばりなのだが、しーちゃんは楽しんでくれたようだ。入場した時間が遅かったのでイルカのショーが見られず地団駄を踏んでいたこと以外は。みやげ物のコーナーで、案の定指輪をねだってきたが、ぶーぶー文句言うのを押し切って携帯電話のストラップを買ってやった。やっぱり、男が女に指輪を送るっていうのは、他のアクセサリーとは天と地ほど意味が違うと思う。

晩飯は房総ラーメン。房総と言えば他には海鮮丼だが、しーちゃんが生魚は苦手という事で見送る運びとなった。そして、鴨川シーワールド近くの色んな意味で高いホテルは財布と相談したところこれまた見送る運びとなり、少し外れのビジネスホテルに宿を取る事にした。

「はい、しーちゃんは603号室な。」

「え? ・・・・うち、一人で泊まるん?」

「いや、わしも泊まるで? わしは401号室。」

「・・・・別々の部屋なん?」

「当たり前やろ。」

「そっか・・・・そげんね・・・・。」

何か急に暗く沈んでしまった。いつもの掛け合いも冴えない。

「どした? 遊び疲れたか?」

「なんでもない。お休み。」

「ああ、お休み。明日は、そやな、8時にロビー集合な。」

「分かった。」

部屋に入り、ジャンパーも脱がずにベッドに倒れこむ。ああ、やっぱりだいぶ消耗したなぁ・・・・ずっとバイクの後ろいうんも結構きついやろうし、しーちゃんも疲れたんやろうな。へとへとになるまで全力で遊んで、ほんっと子供みたい。そこが可愛いんやけどな。

翌日、疲れが取れないのか、しーちゃんはずっと元気が無かった。どこに寄る事もなく、さっさと帰路へとついた。

この一件で気づいたどうでも良い事。しーちゃんは、意外と訛りが酷い。わしが言えた義理ではないが、標準語というか東京言葉を話す普段は、思ったよりも頑張っているのかも知れない。


3.渡る世間は風邪ばかり

「・・・・37度5分。」

風邪やなぁ。致し方ない、今日はサボるか。いちるの望みをかけてさっちんに代返を頼んどこう。メール送信・・・・と。


少し寝て起きておかゆを作って食ってまた寝て起きて・・・・そろそろ、2限が終わる時間。

ピンポーン。こんな時にうるせえ奴だな。どうせこんな時間に来るのはセールスか宗教団体だ、無視無視。

・・・・・・・・。

コンコン、コンコン。っだ~! しつこい。きちんと御用をお聞きしてお引取り願おう。

「帰れ。」

「何よ開口一番。」

「あれ? しーちゃん。なんでわしん家を知っとるん?」

「さっちんに聞いた。」

「あんにゃろー口が軽いのぉ。」

「違うん、うちが聞いたん。さっちんは中々口を割らんかったんよ。」

「いや、そこまでさっちんの名誉のために戦わんでも。」

「風邪ひいたんでしょ? 看病してあげる。早くここを開けなさい。」

「ダメ。わしは薬飲まんし、寝て起きてシャワー浴びてまた寝るだけやし、自分に風邪うつしてもあかんし、わしん事はほっといて帰りんさい。」

「何よぉ。こんなきゃわいい看護婦さんに看られて嬉しいくせに。」

「要らん。帰れ。」

「開けなさーい。騒ぐぞー。わーわーわー!」

「分かった分かった! もう。」


「何か食べたいもの、無い?」

「無い。」

「何かして欲しい事、無い?」

「帰って欲しい。」

「もー!」

「いやあの、わしほんまに寝たいねん。気持ちはありがたいんやけど。」

「汗凄い。ふいたげるね。」

「うつるって。シャワー浴びてざーっと流すけんええっちゅうに。明日やって講義あるっしょ、自分。」

「ううう、もう、分かったよ。・・・・ね、お休みのちゅーしてあげよっか。」

「わー、要らんっちゅうねん。こら、やめぇ。」

「こら、暴れんな。良いではないか良いではないか。」

ちゅ。

「おい! お休みのちゅー言うたら普通おでこやろ!」

「え? ほっぺじゃないの?」

「ほっぺは、親愛、厚意、他に・・・・あの、一応・・・・ほら、男と女って愛し合うやん、その、終わりにすると、満足だよ、という意味がある。」

「ひええ。いやん、もう。エッチ。」

「やかあしわ。おでこは友情、家族愛。おおもとはグリルパルツァーいう人が残した言葉やそうやけど。」

「ふぅん。ねぇねぇ、他には? 他には?」

「・・・・どさくさにまぎれて居座ろうとしょるやろ。」

「そそそんな事ないよ? ね、ね、教えて。」

「しょうがねぇのぉ・・・・。手の上ならば尊敬のキス、額の上ならば友情のキス、頬の上ならば厚意のキス、唇の上ならば愛情のキス、瞼の上ならば憧憬のキス、掌の上ならば懇願のキス、腕と首ならば欲望のキス、さてその他はみな狂気の沙汰、なんて言葉があるな。」

「うわぁ・・・・ロマンチック・・・・なんだけど・・・・カズーが言うとちょっと気持ち悪いかも。」

「泣かすぞバカ野郎チビ。」

「チビですってぇ! うちは166cmあんのよ!?」

「嘘ですよねそれ。明らかに155も無いよね。」

「う~~~~。154だもん。もうちょっとで155あるもん。」

「いやいやいや、この年から伸びたりはせんやろ。155も無いやん。その上で12cmもサバ読める自分に乾杯。・・・・ふぅ。」

「あ・・・・疲れてるよね。ごめんね。うち、わがままだね。」

「なん、どしたんよ急に。」

「ん~ん、うち、帰るね。」

そして、しーちゃんはわしの手をとり、手のひらに軽く口をつけてから帰っていった。さっきの話を意図しているのであれば・・・・懇願のキス。しーちゃん、何か、何か望みが、あるんかな。わしで良ければ、絶対に、叶えてみせる・・・・この風邪が治ったらの話やけど・・・・。


「・・・・38度2分・・・・。」

「ご、ごめんねぇ・・・・ふぇん、許して。」

「バカ、今つらいんは自分なんやけん、怒ったりなんかせんよ。何か食べたいものあるか?」

「食欲ないよぅ。」

「それでも何か腹に入れんと。おかゆ作ろうか?」

「おかゆマズいもん・・・・ヤだ。」

「ばぁか。わしが作る、超うまい、おかゆだ。」

「・・・・うん、それなら、食べる。」

「ふふ。ちょっと待ってな。」

額の汗をぬぐってからしーちゃんの頭を撫で付けて寝かせ、台所に向かう。さて・・・・確かに塩味しかしない重湯のようなおかゆなんて味気ない。そうだな、アレにするか。

ダシはいりこ。鰹節も悪くないがクセが強い、昆布も良いが残念ながら見当たらない、椎茸は今から煮てる時間が無いし、粥のダシとしてだとイヤな甘みになる。鍋を火にかけ、湯が沸く直前にさっと入れてさっと出す。それでもアクは出るので丁寧にすくう。ここで味がにごると全てが台無しだ。味付けは必要最低限、塩、醤油を少々。満腹感を補うため、片栗粉・・・・ごそごそ・・・・無かった。お、餅取り粉(コーンスターチ)があんじゃん。軽くとろみを付ける。今回は野菜は煮込まない。

米は冷凍した奴があったのでこれを電子レンジで加熱ではなく解凍する。炊いた米でおかゆを作る時は普通の冷や飯があれば申し分ない。無ければ普通に冷ませば良い。炊き立ての米を入れるのはNGだ。生米からおかゆを作るのは、好みの問題だが水を吸っていない分味が落ちるとわしは思う。さて、ここが肝心。鍋のしめのおじやでも米を入れた後かき混ぜる奴が多い(自称「料理上手オヤジ」のオッサンに特に多い)が、それはご法度だ。米は表面が崩れてどろどろになるし、湯に溶け出した米は舌触りが悪いことこの上ない。

栄養は取って欲しいところだが今回は卵も入れない。まずは何かを腹に入れるのを優先する。卵と言えば、もう一度おじやの例を出すが、溶き卵と米を同時に入れるのはもう最悪中の最悪で、べしゃべしゃかぼそぼそのどちらかに必ずなる。卵黄、卵白、米はそれぞれ煮るのに最適な温度が違うので、米に合わせて55度くらいで煮ると卵白がドロドロ、卵白に合わせて80度以上にすると米が先ほどかき混ぜた例と同じで温度が高すぎて表面が崩れてドロドロになる。どうしてもおかゆに卵を入れたい場合は卵黄のみをごはんとともに60度くらいで煮込むか、先に溶き卵を入れて90度前後で卵を固めた後で60度まで下げてごはんを投入するのが良いだろう。いずれにせよ絶対に沸騰させてはいけない。

おし、出来た。純粋に米の味が染み渡るわしのオリジナルレシピ。ところで、だしの出し方を見て「あれ? それって鰹節じゃないの?」と思った諸兄は安心されたい。わしが使ったのはめんつゆで有名なヤ○キの「元気一番に○゛しだけよ」で、こいつは煮干を削り節にしてあるという、使いやすさ、味ともに満点のだしなのである。もちろん鰹節の代わりに、ほうれん草のおひたしに乗せてもよし、しょうゆ漬けにしておにぎりの具にしてもよし。兄弟商品に「元気一番いりこだ○よ」というのもあるが、こちらはわしは使ったこと無いので分からない。

「お待たせ。はい。」

「あーん。」

「は?」

「あーんして。」

「えぇ? 甘えんな。」

「あ~~ん~~。」

「・・・・はい、あーん。」

「ング。はふ、はふ、はふ。ふ、おいひい、けお、ひょっと熱い。ふーふーして。」

「・・・・ふー、ふー、はい、あーん。」

「ん、おいしい。」

しーちゃんにはとことん甘いわし。いや、あれだ。ほら、病気してるから、そうだ。・・・・やめた。言い訳しても、甘やかしたいんだからしょうがない。恥ずかしい話、クラスの中でも、わしのしーちゃんに対する甘さは有名で、愛兄妹(しーちゃんの方が誕生日は先なのだが・・・・)、親鳥と雛鳥(以下同文)、あるいは年の差カップル(わしとしーちゃんは同い年なのだが・・・・)などと、やゆされもした事がある。こうやって、おかゆを食べさせていると、あながち間違いでもないかも、なんて思ってしまう。多分、いつもそのくらい、わしは、しーちゃんを、かまっているのだろう。

「ふひー、ごちそうさまぁ。」

「どうだ?」

「えへへ。おいしかった。熱いもの食べたから体熱くなってきたよぅ。体拭いて。」

「バカ、それは自分で拭け。台所片付けてくるから。」

「は~い。」

食器を洗い、部屋に戻ると、腹が落ち着いたからか、しーちゃんは小さな寝息を立ててお休みのご様子。

「妹のぉ・・・・雛鳥の方やな。」

「誰が雛鳥よぉ。」

「・・・・起きとったんかい。」

「ん。・・・・ふにぃ。うち、少し寝るぅ。」

「そうしろ。」

「お休みのちゅー。」

「言うと思った。」

「ほっぺが良い。」

「ダメ。」

ちゅ。おでこに軽いキスをする。

「えへへ。」

「じゃ、もう寝ろ。鍵かけて、便受けに投函しとくけな。」


「おはよ。」

「あ、カズー、おはよー。えへへ、元気になったよ、うち。」

「ん、良かった。・・・・あれ? さっちんは?」

「風邪だってさ。」


4.なりたい恋人、なってあげたい恋人

しーちゃんから度肝を抜かれる告白をされたのは、年が明けてすぐの事だった。

「うちね、実は・・・・結構前から好きな人が居るんよ。」

そうか、バイクでお泊りデート(!)した日以来特に目に付くようになったが、躁鬱のように喜怒哀楽が唐突に変わり、時に気が触れたかのように変な行動を取っていた理由がここに判明した。しーちゃんは、恋の病にかかっていたのだ~。って、別に誰にでも分かるし偉そうに指摘する話でもないのだが。ぷぷ、それにしても恋の病だって。ぷぷぷ。おっと、いかんいかん、わしを信じてそんな乙女の秘密を吐露してくれてるんだ、こっちも真剣に話をせんとな。

「んで、告ったん?」

「ま、まだ。そんなん怖くてできんよぉ。」

面と向かって言う勇気は無い。ま、そりゃそうだ。で、間接的なアプローチで攻め入ろうとするもことごとく失敗。しかし、今までどんなモーションをかけたかあれこれ話を聞きながら、わしには全然関係ない話なのに顔が赤面していくのが分かって我ながら恥ずかしい。かなり際どい、告白スレスレ、と言うか99%告白のような・・・・。

「・・・・うちの事、全然気づいてくれん。」

「・・・・は~。いや、しかし・・・・そこまでしよんのに全然やなんて、よっぽど鈍い奴なんやの~。」

あるいは、当然その気持ちには気づいていて、それを無視というかかわそうとしている、か。今の話を聞く限り、こちらの可能性の方が高い。むしろ、曲がりなりにも女の子にそこまでやらせておいて好きだなんて思いませんでした~なんて、恋愛シミュレーションゲームの鈍感主人公も裸足で逃げ出すわ。しかし、これを言ってしまうと落ち込むだろうな・・・・おそらくしーちゃんはそれに気づいていない。恋は盲目と言うが、ま、大変だぁね。まぁ、相談を受けた所でわしができる事は何も無いのだが、話聞くだけで少しでも気が晴れるってんなら、お安い御用だ。

「ほやけど、それでも前に進むためには、ちゃんと気持ち伝えんにゃあ。」

「・・・・それができんから、相談してるんじゃん。」

「そらそうや。」

我ながらチープな意見だった。反省。


さて、何も予定の無い土曜日。何をしよう。ちゃららちゃんちゃちゃん、ちゃららちゃんちゃちゃん、ちゃららちゃんちゃちゃちゃちゃ、ちゃん。ん? しーちゃんから電話だ。ピッ。

「はいよ。どした。」

「あ、カズー。あのー。前、カズーさぁ、チョコクッキー、焼いてきたよねぇ? あれ、教えて欲しいなと思って。」

そうか、今日はバレンタイン。チョコクッキーを焼いて愛しの彼に持っていくってスンポーだな。よっしゃよっしゃ、おじちゃんに全てをまかせんかい。勇気を持って進もうとするしーちゃんに協力を惜しむつもりはない。

「ええで、どうすればええ?」

「今から、うち、来てくれるかな?」

「分かった。材料は?」

「全部ある。」

「上出来。」


「ごめんね。」

「どうっちゅう事ねぇよ。」

持ってきたエプロンをしめながら、気合を乗せていく。洋菓子作りは、半端な気持ちじゃできない。

「今日中に渡したいの。」

「そっか。そりゃそうやな。ほんだら生地を寝かせるタイプは避けて、混ぜたらすぐこねて焼けるのにしよっか。」

「はい。」

良い返事だ。ふと、思い出す・・・・そうだ、去年のバレンタインもこいつはチョコクッキーか何かを焼いていた。わしも貰ったけど、正直お世辞にも上手とは言えない出来で・・・・。自慢ではないがわしは2週に1回は洋菓子を焼いていて、普通のクッキーやフローズンクッキー程度なら分量だけでどんな味になるか想像できるし、どんな味にアレンジするかをイメージすると自動的に分量が頭に浮かぶ。

「バターの量に対して、砂糖を半分、小麦粉は1.5倍が基本な。念のため生地を多めに作ろや。今回はバター200g、砂糖100g、小麦粉300gで小さめサイズを64枚作ろう。」

「はい。」

「むぅ・・・・上白糖やなくてグラニュー糖やなこれ。小麦粉を10g減らして、砂糖を5g増やそう。」

「はい。」

「さらに小麦粉はココアの分だけ減らす。ビターにしたければ、砂糖も合わせて少し減らす。ん~、このココアは砂糖も入っとるな。ちょっと舐めてみてええ? ・・・・この甘さと苦さやったら・・・・ココアを50g入れて、砂糖を30g、小麦粉を15g減らそう。」

「はい。」

「何かにつけ量が多いっけ、力が必要なんじゃが・・・・最初バターを練るんはわしがしよか?」

「ううん、大丈夫、うちがしたいから。」

「そっか、じゃあ頑張れ。」

「ところで、卵は?」

「ん~今回はサクサク感で攻めてみたいと思う。わしが思うに、その時卵黄は邪魔なんよなぁ。入れんとこう。」

「はい。」


「ねぇ、カズー。」

「はいなんでしょう。」

「砂糖やバターって、もう少し減らした方が良いんじゃない? なんか・・・・凄い量だよこれ。健康にも悪そうなんじゃ・・・・。」

「ん~、バターも砂糖も、実は甘みやコクのためだけじゃなくって、これはこれで必要やねん。さっき2対1対3て言ったけどやっぱり意味があるんやと思うね。砂糖は糖が水を集めたり、バターの脂分も小麦同士の結びつけを安定させたりするためにあるんやな。確かにぱっと見すごい事になっとるけど、これにびびったら仕上がりが極端に悪くなる。」

「そっかぁ・・・・じゃあ小さく見えるけどあまり食べられないね・・・・うち、家で作ったらたくさん食べれるかなぁって。」

「くす。味とヘルシーを両立させるのはこれからの研究しだいやな。」

「頑張ってみる。」

「それと、カロリーだけの話をするなら、100gあたりのカロリーは砂糖と小麦粉はほとんど変わらない。ほら、成分表見てみ。グラニュー糖は100g387kcalで薄力粉は368kcalじゃろう?」

「わ、ほんとだ! じゃあ、クッキーって・・・・。」

「ひひひ、すごいじゃろう?」

「・・・・頑張ってみる。」


およ? 意外と上手にバターを練るな。この室温なのに見る見るうちにバターがクリーム状になっていく。

「カズー、出来た。」

「もうちょっと白くなるまで。砂糖なしでも砂糖が入っているのかなと思うくらいの色にしてな。そうね、後1分くらい練ったらええかな。そしたら砂糖を半分ずつ2回に分けて入れて、それぞれ砂糖の粉が見えんくなるくらいまで練るんよ。」

「はい。」


ふむ、砂糖を練るのも問題なし。

「カズー、どう?」

「ん、良い。こっちで小麦粉とココアを合わせてふるっといたけん、これを三分の一ずつ3回に分けて入れて、混ぜて、入れて、混ぜて、入れて、混ぜる。混ぜるんはさっくりって言うけど、さっくりって言うても混ざっとらんかったら意味がない。洋菓子のさっくりはしっかりとって覚えておいて。練りが足りないくらいなら練りすぎの方がいい。混ぜきってからチョコチップを加えてまた混ぜてもいいくらいだ。」

「はい。」


やっぱりここよなぁ。去年の奴もそうだった。クッキーはバターを練って砂糖を加えて練って小麦粉を加えて練るというのが基本的な手順。もちろん、だんだん大きく重くなっていく。

「ん~! んん~!」

「ほら、自分の腕力やとそれ以上はつらいやろ。ちょっと変わってやる。」

「だい、じょう、ぶ。一人で、やらんと、意味、ないもん。」

「・・・・頑張るのぉ・・・・。」

しーちゃんの額からは汗がだらだら垂れている。それがボウルに落ちないよう拭ってやる。今日はわしの言う事を素直に聞くし、ちゃちゃも入れんし、どれだけ真剣なのかが分かる。こいつにここまで想われるって、ちょっと羨ましいなぁ。でも、振られるかも知れんのよなぁ。相変わらず想い人とやらはしーちゃんのアプローチをのらりくらりとかわしているそうで、なんかそこまで行くとそいつは不誠実な奴なんじゃないかと思ったが、本当に不誠実なら適当に遊んでポイするかなとも思った。どちらにせよわしが口出しをする話じゃない。今はただ、全力でしーちゃんの恋を応援したい。

「ん、ん、ん! ふぅ・・・・カズー、どう?」

「もうちょっとだけ頑張って。後・・・・20回くらいこねような。」

「はい。んしょ、んしょ、う~んしょ!」

「・・・・うん、充分やな。後は、皿に小麦粉出しといたから、これをちょっと手につけて生地をちぎって丸めて叩いて鉄板に乗せて焼くだけ。クッキーって焼くと割と膨らむけん、気持ち小さめ、薄めに握ってな。」

「はい。」

「今日は部屋ん中もだいぶ冷えるけんな、思い切って200度まであげようか・・・・いや、ん~、やっぱり180度の28分にしよう。」

「はい。」


「出来たぁ!」

「おめでとう。しーちゃん。おぉ・・・・こりゃ見事やわ。」

見るまでもない、焼いている途中のにおいで分かる。これは会心の出来だ。

「食べてみて。あ、ちょっと待って。やっぱり包む。」

数枚拾って可愛い袋に詰めるしーちゃん、リボンまでつけてくれて、本格的やなぁ。

「あ、あの、カズー、これ、受け取ってください。・・・・お礼ですけど。」

「ありがとう。これ、本番に使う奴と同じ包装にしてくれたんとちゃうん。嬉しいわぁ。」

せっかく綺麗に包んでもらったけど、すぐ開封されてしまう。無駄なんじゃとも思ったが、それだけ感謝してくれたんだと思うとそれもまた嬉しい。その気持ちと共に、ありがたくいただく。

「ん~~~~! 最高~~~~! これで彼のハートも鷲づかみやわ!」

これは間違いない奴ですよ。香り、形、味、すべてにおいて最高だ。思わずガッツポーズを取る。

「そ、そっかな。えへへ。ほんとに美味しい?」

「すっげーうめーよこれ。わしが焼いたんよりうめーわこれ。さっすが、愛のエッセンスが入ったら全然ちゃうわ。」

「ええええええへへへへ、そっかなぁ。」

ううわ、冷やかしも全く通じない・・・・恋の魔法は恐るべし。


「んじゃ、そろそろ帰るな。」

「あ、待って、待ってよぅ。もうちょっとだけ。」

「いや、さすがにもう帰らんと。あのー、その、今日中に渡したいんやろ?」

「ん、それは、その、もう良いって言うか、もう終わったって言うか。」

「自分のぉ! ここまできて怖気づいたんかいな! ・・・・ふぅ、も~いつまでたってもしゃあない子やな。分かった、ほんだら、もうちょっと居るけん、今、彼に電話してみな。渡すにしてもちゃんとアポ取らんとに向こうやって時間取れんかもやで。」

「ん・・・・そっか、そうだよね。」

と言いつつしーちゃんは携帯電話を見つめたままうじうじ悩んでいる。いいねぇ恋する乙女は、初々しいねぇ。まさかあのしーちゃんがこんなモジモジくんだったとはねー。女の子だからモジモジさんか? うまく行って付き合い始めたとしても、奴はしーちゃんのこんな表情を見ることはない。ちょっとだけ優越感を感じる。

「かける。今からかける。」

「おし! 行け!」

ピッピッピッ。しーちゃんの中で緊張が高まっていくのがはっきりと分かる。それにつられて、こっちも関係ないのにどきどきしてきた。・・・・。ちゃららちゃんちゃちゃんちゃららちゃんちゃちゃんちゃららちゃんちゃちゃちゃちゃ、ちゃん。うわ! びっくりした。わしの携帯か。って・・・・「山崎 しづる」。

「じ、自分のぉ! この場面でよぉこんなボケかませるわホンマ。いや、ちょっとおもろかったけど。」

「・・・・出て。」

「え?」

「電話、だよ。ほら、出ないと。」

しーちゃんは真剣なまなざしでこっちを見ている。怒っているのかとも思えるくらいで、ジョークって訳では無い・・・・と。ピッ。

「もしもし? 桜坂ですけど?」

「あ、あの、うち、しーちゃんです。あの、あのぉ! うち、カズーが好きです!」

「え? え? え? ええええええええええええ!?」

プツ。ツーッツーッツー。それっきりで電話は切れてしまった。予想だにしなかった展開に思考がついていかず、通話を切らないまま呆然としーちゃんを見つめる。しーちゃんは携帯電話を置き、こちらから目をそらさずに擦り寄ってくる。

「カズー、うち、カズーの事が、好きなの。」

「いや、おい、ちょ待てって。やって、自分、好きな奴が。」

「違う。うち、ずっと好きって態度してたのに、カズー全然気づいてくれんかった。」

頭の中をぐるぐる回る、好きという言葉と・・・・昔聞いたアプローチの数々。あれが、まさか、わしに向けてのものだった、なんて・・・・しーちゃんの想いに全く気づかない鈍感なバカ、あるいは、正面から受け止めようとせずにのらりくらりとかわすだけの不誠実な男は・・・・わし・・・・だった?

「カズー、うちの事、嫌い?」

「い、いや、ちょ、ちょっと待って。気持ちの、整理が、できん。あの、ごめん、ほんと、今、今は、わし、分からんし、返事もできんわ。」

ふーっと呆れたようにため息をつくしーちゃん。

「やっぱり全然気づいてなかったんやぁ。ひょっとして、分かってて、うちの事嫌いで、実はずっと迷惑してて、カズーは優しいけんそんな事言えんで、何も言うてくれんのかと。」

「あ・・・・ううう。ごめん。わし、今までずっと、誰やろ誰やろ思うとって、クラスの奴かなとか、全員当てはめてみたけど、誰か分からんで。あの、わしかな思うてつれない態度取りよったとか、そんな事は絶対ないで? わしはそんな事、絶対にせんし。その、ただ、鈍いだけやで? いや、そんなん言うたってバカって宣言しょうるみたいやし何の言い訳にもなっとらんけど、その、あの、ほんとに、わしやったなんて、思いもせんかった。」

「鈍感でも、バカでも良い。カズーが好きよ。」

落ち着け、落ち着け。しーちゃんが、わしを好き。ここまではOK。追いついた。では・・・・わしは、しーちゃんを・・・・。・・・・・・・・。

「ええと、ごめん。今のわしでは、しーちゃんの気持ちには応えられん、です。」

「なんで? 他に好きな人、居るん?」

「いや、それは居ない。・・・・しーちゃん、よく聞いて。あの、わしは、今、好きな人が、居ません。それは、その、言いづらいけど、しーちゃんの事も、好き、という訳では、無いって事で。」

「イヤぁ! うちの事好きじゃなくても良い! 嫌いでも良い! うちの、恋人になって・・・・他の人に取られるんはイヤぁ!」

「しーちゃん、落ち着いて、とにかく、しーちゃんの恋人にもなれんけど、他の人の恋人にも、絶対ならんし。」

「あのね、うち、自分でもすごい身勝手やってわかってる。でも、うち、こんなに勇気を振り絞って、考えて、頑張って、告白したんよ。応えて欲しい。うちの事、好きになって欲しい。」

「と、とにかく、ちょっと考えさせて。」

「うん、10分で良い?」

「・・・・いや、ちょっとって、そういう意味では・・・・。」

「カズー、うち、不安なん、怖くて、つらいの。お願い、うちを安心させてぇ・・・・。」

「・・・・ん~分かった、10分で良いや。考えさせてくれな。」

考えろ、どうすれば良い? ここで逃げるなんて許されない。どうすれば、しーちゃんが幸せになれるのか。


きっかり10分後、わしはある決断をしていた。

「なぁ、しーちゃん、今から結構酷い事言うてええ?」

「ヤだ。」

「聞けよ。あのー、わしは今、他の誰とも付き合う気ないし、将来も同じ。あのー、あれですよ。つまり、しーちゃんの事を、予約するって言うか、しーちゃんがわしを好きでなくなるか、わしがしーちゃんを好きになるか、そうならん限り、あわてて動き出したくないというか。もちろん、他の女は絶対に見ん。で、その、もし、それでも、恋人っていう肩書きというか、売約済みというか、そういうのが良いっていうのであれば、わしは、しーちゃんと付き合おうと思う。それでも、あの、キスとか、その先とかは、無しで。こんな気持ちでそんな事はできんし、わしもしたくないし、しーちゃんに対しても失礼だと思う、けん。」

「うううう。」

「ええと、つまり、付き合って、下さい。好きになる、努力はします。いや、きっと好きになれると思うから。」

「あの、ね、口付け以外なら、その、ちゅーしても、良いでしょ?」

「う・・・・それは、ええと・・・・少しなら。」

「唇以外で良いから・・・・どこでも、場所は任せるから・・・・ちゅーして。」

「・・・・分かった。」

わしはしーちゃんの手を取り、手の甲に軽くキスをする。それは・・・・忠誠の誓い。絶対にあなたを裏切りませんという、宣誓のキス。

「う、うう、うええ、えぐ、えぐ。」

今まで我慢していた涙があふれ出てしーちゃんの頬を濡らして行く。胸が痛くて、でも、もう引き返すことはできなくて。

「・・・・ぎゅってしてぇ。」

「うん。」

そっと抱き寄せる。しーちゃんは深くわしの胸に顔をうずめて・・・・声を殺して静かに泣き続けている。いきなりだけど・・・・選択誤ったかなぁ。振られたのに、付き合っている。付き合っているのに、こんなに遠く離れている。しーちゃんに、最も残酷な仕打ちをしてしまったのかも知れない。胸の痛みが治まらない。せめて、せめてしーちゃんが望む事は何でも叶えてあげたい。恋人になりたいというのならば、恋人になってあげたいから。こんな考えは、傲慢だろうか。


5.桜の花びら咲くたびに

付き合い出して以来、胸の痛みが治まる事は、今のところ無い。ほっとした事があるとすれば、クラスの仲の良い友人たちに交際を伝えた時の反応「え? 今までは付き合ってなかったの!?」に対してしーちゃんが嬉しそうに照れていた事か。だが、そんな事に安心していられるとは、わしも思ってなかった訳で。

「アンタってさぁ、結構っていうか、だいぶひどいよね。」

「お、おい。ノリコ。」

「さっちんは黙ってなよ! あたしはカズーと話してンの!」

「えうううう・・・・は、はい。おっしゃる通りです。」

日高紀子。さっちんの彼女であり、しーちゃんの大親友。恐らくわしとしーちゃんの交際の背景もよく分かっていらっしゃる事だろう。わしとノリコは、直接親しいという訳ではないのだが、わしの彼女であるしーちゃんが仲介になって一緒にどこか行く事もあるし、わしがさっちんとつるんでいる時にノリコが寄ってくる事もあるので、それなりに話はする。ただ、やはり直接話すという事はしないため、ノリコが話があると言い出した時には、さっちんはずいぶん面食らっていた。わしは・・・・ああ、きっとしーちゃんから何か聞いたんやなと、それでわしを説教しようとしよんやなと、まぁ、それなりに心当たりがあるというか。

「なにぐだぐだやってんのさ!? アンタ、しーちゃんの事、大事じゃないの!? 何もてあそぶような事ずっと続けてんのさ!?」

「わしにもわからんのやがな。何かがひっかかっとるんじゃけど、それが何か未だに分からんでの。」

「あの子、電話で泣きながら言ってた。愛されたいって。何があんのか知んないけどさ。愛してないって事でしょ!? なんなのさ。あんだけみんなの前でしーちゃんに気があるようなそぶりを見せといて、体だけが目的だったの!?」

今のわしはどんな文句を言われても仕方が無いのかも知れない。しかし、正直、ほんの少しだけかちんと来た。

「愛しとるわ! 愛しとーけん悩んどんやろが!」

「おい、おいって。カズー。おい。ノリコも。やばいって。声落とせよ。」

さっちんにいさめられ、ふと、視線を感じて、わしとノリコはそちらを見る。いつから居たのか、しーちゃんがすぐそばまで近づいていた。

「ノリコ・・・・。」

「あ、いや、あの。これはさ。別に・・・・その。」

「しーちゃん、あのよ。」

「何も言わんで。ノリコ、ちょっと来てもらえる?」

「しーちゃん、あの。あたしはさ、その。なんてーか。」

ノリコはしーちゃんに引っ張られていった。ううん。なんだかよく分からん事になってきたが、全ての原因はわしにある。ノリコが悪い訳ではない。しーちゃんもそれはきっと分かっているのだろうが・・・・。

「カズーよぉ。オレにはよく分からんが、オレは別にお前が悪いとは思わんぜ。」

「なぐさめありがとう。わしやってなんとかしーちゃんにはよぉこの状況から脱出させたいと思うけの。」

「おい、カズー、オレはな。」

「大丈夫大丈夫。まかせとけって。ノリコの奴にも心配かけてすまんってよろしく言っといてくれや。ほんだらの。」

教室を出ようとすると、丁度しーちゃんとノリコが帰ってきた。

「か、カズーさぁ、その、ごめんねぇ。なんだかあたし一人突っ走っちゃったみたいで。」

「いや、その、わりぃ。ほんまに、わしが早よなんとかせんといけん問題やし、それは、言って貰えて良かったっちゅうか。」

「もー、カズー何よ。ええんよ。何も。ノリコも。さっきも言うたけど、うちな、うちの幸せは、うちが自分で決める。うちは、この人と一緒に居るんが幸せやけん、一緒に居りたいだけなんよ。」

・・・・ああ、まぶしい、まぶしいよしーちゃん。なんでこんな男をここまで想ってくださるのか。女神様だよあなたは。ここまで言われると、そのー、男としてはグっと来るよなぁ。クラっときてまうよなぁ。惚れるよなぁ。

・・・・惚れる? そうだ、確かにわしはしーちゃんに惚れている。きっと、入学式の、あの時からずっと惹かれていったのだろう。では、なぜだ? 何がひっかかっている? 何が気になる? これは、もう一度落ち着いて考えてみるべきだな。惚れて、惚れてもらいよる間柄で、わしはなぜあと一歩が踏み出せないのか。


季節はめぐり、また春が訪れる。わしとしーちゃんは、4回生になっていた。大学からの帰り道、しーちゃんと二人、夜の桜並木を歩く。

「うわぁ、綺麗。」

見事に咲き乱れる桜。しーちゃんは、変わらない。わしの方はというと、少し、変わったと思う。二人にとっては、良い意味で。

「でも、桜はすぐ散ってしまう・・・・綺麗なのは一瞬だけなのに。」

「やけ、綺麗なんやろ。」

「うちら、来年も一緒に見れるかなぁ。」

「見れるわいや。」

そこで分かれ道に到着。会話も同時に途切れてしまう。

「ぎゅって、して。」

「ん。」

夜も遅く幸いにして人通りは無いが、人目もはばからず抱きしめる。これは、いつもの二人の風景。しーちゃんは、決してそれ以上は求めて来ない。わしも、それ以上踏み込むような事はしない。もどかしいような、ほっとしたような、臆病者同士のチキンレース。いや・・・・臆病なのは、わし。しーちゃんを臆病にしてしまったのも、わし。心の痛みはまだ取れそうにない。しかし、その痛みの原因は、刻一刻と、変わってきている。

わしは、しーちゃんが愛しい。もちろん、それは、恋人、異性、として。今になって、告白されたあの日、己がどんな酷い事をしたのかがよく分かる。あの時、わしが妙な均衡を作り出さなければ、今、二人はもっと自然に、もう少し素直に、愛し合えるように、なっていたのに。あの時勇気を出して歩み寄ってくれたしーちゃんに対して、勝手に、意味の無い線引きをして、そして今、その線を自ら越えられないでいる。こんなわしが、しーちゃんに、赦されて良いのだろうか。だけど、わしはもう迷わない。どうしてわしはこの子を愛する事を躊躇しているのか、何が引っかかっているのか。もう、そんな事はどうでも良い。これ以上、つらい思いはさせない。好きだ。それだけでいい。

「う・・・・う・・・・えぐ。」

抱きついたまま、声を殺して泣き続けるしーちゃん。これもいつもの風景。このまま二人、言葉を交わさずに帰途につけば、いつもと同じ一日が終わる。わしは口を開こうとした。いつもと違う明日のために。しかし、先に均衡を破ったのはしーちゃんの方だった。

「うち、うち・・・・つらい。優しいカズーが、つらい。毎日、ぎゅってしてるのに、毎日、少しずつカズーが離れていってるようで、つらい。カズーは、このまま一生、うちに縛られて生きていくんかなって思って、つらい。カズーは、こうしてる今も、何か、何か分かんないけど、何か考え事してる。」

・・・・しーちゃんは全身全霊でわしを好いてくれる。夢見がちで盲目的な恋じゃなく、愛を押し付けてくる事もなく、本当に、ずっと、わしの事を見つめてくれている。わしの事を考えてくれている。そんなしーちゃんが、愛しくならない、わけがない。わしは、なんて浅はかだったんだろう。あやふやで、実体も根拠も無いもやもやのために、こんなに心を痛めさせて。

「あの、考え事は、よそ事とはちゃうねん。しーちゃんの事、考えよった。わしな、あの、しーちゃんの事、好き、になり始めよる、と、思う。」

「え? あ・・・・あの、それって。」

「うん、今しーちゃんが思っとる通りの意味、で、な。あの、わし、ものすごく、今まで、悪いことしてきたなって思う。ものすごく、勝手な、希望に、なる、けどや、あの、わしはもう一度、仕切り直しっちゅうか、もう一度しーちゃんとここから始めたい。今までの事を全部リセットするんではなくって、今までの事は今までの事として、これからは、ちゃんと恋人として、しーちゃんを愛したい・・・・愛してる。」

「カズーは今日からうちと付き合い始めるって事?」

「えと、その、そうね。今日からも付き合い始めるし、2月14日も付き合い始めた日やし、ずっと恋人・・・・ああうう、ごめん、うまく言えんけど、その、ああ、そう、つまり、言いたい事は、しーちゃんを好きになりましたって事。いや、本当は初めて会ったあの瞬間から、しーちゃんを好きやった。今まで、今まではその、好きなんやけど、何かブレーキがかかっとった言うか、なんちゅうか。ほんで、もうブレーキをかけるんはやめる。わしは、しーちゃんのことが好きだ。」

「・・・・ホント?」

「本当。」

「・・・・嘘ちゃう?」

「嘘ちゃう。」

「・・・・じゃあ、じゃあ、これからは、ちゅーも、その先も、してくれる?」

顔を上げてためらいがちに可愛いおねだりをしてくるしーちゃん。わしの話に少し驚いたのか、涙の時雨はやんでいた。

「ん、あの、はい、するよ、したい。良い?」

「うん・・・・ずっとして欲しいと思ってた。」

しーちゃんは顔をこちらに向けたまま目を閉じる。その唇にそっと唇を重ねた。しーちゃんは唇が薄い。下唇なんか、もう赤みがさす部分がほとんどみえないくらいだ。それでも、ぷるぷるっというか、ぷにぷにっというか、まさに柔肌という表現がぴったりの、しーちゃんらしい、控えめで、可愛い唇。

「ん・・・・。」

強く抱きついてくる。今まで、ずっと泣かせ続けてきた。今から、絶対に泣かせない。強く抱きしめる。

「えへへ、うち、幸せ。予約しておいて、良かった。うち、うち、本当に幸せだよぅ。」

今までの事さえも良かったと言ってくれるしーちゃん。けして強がりではない、いじらしい言葉。ずっと待たせて、本当にごめん、やっと、やっとしーちゃんのもとへ、たどり着いたよ。

バレンタインには、思い出そう。悲しい恋が始まった日の事を。桜の花びら咲くたびに、思い出そう。幸せな恋が始まった日の事を。


6.母親はストレンジャー

「たっだいま~、ねーねー見て~、青色~。」

免許の更新に行っていたしーちゃんが嬉しそうに見せてくる。

「写真、可愛く取れとんな。」

「いやんぅ、もう。えへへ、でしょでしょ~。」

恥ずかしながら、今の二人はいわゆるラブラブ状態。わしは当社比20倍でしーちゃんを甘やかしているし、しーちゃんの「甘えた」ぶりは天井知らずだ。

「ふっふっふ、うりゃ!」

「あ~すご~い、金色~。」

「しーちゃんは後3年お預けやな。・・・・あれ? しーちゃんって本籍Z県なんや。」

「うん、そうだよ~。うちね、三歳くらいまではZ県に住んでたんだって。」

ズキン!・・・・なんだ? 今の。

「そうなんや。わしも生まれはZ県らしいで。」

「ホンマに~? うちらってほら、運命の人なんよきっと~。」

「はいはい。」

ズキン。適当な相槌を打ちながら、わしは心の奥底に何か引っかかるものを感じていた。

「・・・・どうしたの?」

「ん? 何が?」

「何か悩んでる時の顔してる。」

しーちゃんはホント目ざとい。というか、本当にわしの事をずっと見つめているからだろう。わしの、微妙な変化を、絶対に逃さない。嬉しくもあり・・・・時にやりづらい時もあったりなかったり。

「何でもないっすよほんとに。ところで、Z県の思い出みたいなもんはあるんかいな?」

「う~ん、うちはよく分からん。うちのお父さんはね、Z県で民俗学の研究をしていたんだって。でも顔がヤ○ザみたいだから、調査しようとしてもみんな怖がって近づいてこなかったんだって。でも、お隣さんの人はよくしてくれたって言ってた。」

「しーちゃん、しーちゃんのお父さんって、名前何て言うん?」

「え? えええ。それってさぁ。」

「ご挨拶に伺うとかそんな事は一切ありませんので悪しからず。どんだけ話飛ぶねん。バカかてめーは。」

「な~!? もー! うちの事飽きたって言うん!?」

「いやいやいやいや、誰っちゃそんな事言うとらん。なんで自分はそう話が飛ぶんや。とにかく、なんて言うの?」

「ひろし。うちの名前はね~、ひろしのしをとってしづるなんだって。変だよね。」

「変やな。」

「もー! そこは、そんな事ないよ、とか、可愛いよ、とか言え~!」

「はいはい。」

ズキン。ズキン。遠い記憶がおぼろげに浮かび上がる。何か、何かがおかしい。いや、困った事につじつまは全部合ってる。出来損ないのジグソーパズルのように、わしをイライラさせるいくつものピースが、かちりかちりと不快な音をたててはまり始めていた。


すぐさま戸籍抄本を取り寄せたわしは、実家のある香川県へと飛んだ。

香川・・・・か。子供の記憶が思い起こされる。母は、孤独な人だった。いつも、暗く、何かに怯えるように暮らしていた。・・・・母は、左の手首にいつも黒いリストバンドをしていた。その下には、古い傷跡がある事を、わしは知っている。そして、わしにとって、そんな母は、そう、ずっと、どこか見知らぬ人であったように感じていた。

わしは、母にとって間違いなく「いらない子」だった。それは、父が居ないから・・・・というだけではなさそうだ、というのは、少しは大人になった今だから分かる。子供の頃は分からなかった。だからわしは、母から逃れるように関東に移り住んだのだ。

「たでーま。」

「・・・・か、和義なのかい? どうしたんだい、いったい。」

大学に入って初めての帰郷。高校の時も全寮制のところに入って3年間一度も帰っていないので、6年とちょっとか。ま、そりゃそういう反応するわな。

「よぅ、久しぶりやな。お母んよぉ、ちょっと聞きたい事があるんやが、わしのお父んって何て名前かのぉ。」

「な、なんだい。藪から棒に。そんな事今更聞いてどうしようってんだい。」

「何言うとんねん? なんでわしがお父んの事を知ろうとしたらあかんのや?」

「・・・・ひろし、だよ。」

「そいつは今どこに居るんや?」

「い、言っただろ、お前が小さい頃に死んだって。」

「ほお・・・・。んで、わしが生まれた時に、隣に住んどったご夫婦の、旦那さんの名前は? というか、お隣さんの名前は?」

「な、な、な、なんだい。」

「ヤマサキ・・・・。」

「! お前・・・・急にどうしてそんな事を・・・・。」

「ああ、悪い悪い、わしはの。今、関東のN大学に通いよるんやなぁ。そこで、一人の少女と出会った訳や。将来、一緒になろうと思いよる。名前は・・・・山崎しづる。大分県出身の子、なんやけどの。」

「!!!!!」

母の顔から血の気がさぁっと引いていく。

「お、お、お前、ダメだよ、その子は。そんなの許さないよ。」

「別にお母んに許して貰おうとは思いよらんわ。ほやけど、なんで許さんのかは気になるのぉ。きちっと納得できる説明でけるんか?」

「・・・・。」

「ふん。時間の無駄やったか。邪魔したの。」

「お待ち・・・・お待ち。そんな事って・・・・そんな事って・・・・。」

その場に崩れる母を尻目に、わしは次の目的地へと向かった。大分へ。そこで今までの己とこれからの己、全部に決着をつけてやる。

覚悟。そう、必要なものは、揺ぎ無い信念と覚悟。これは、うかつなわしに神が与えたもうた罰なのか。上等だ、全部まとめて喰らってやる。例え地獄に堕ちてでも、ここから引き返すなんて事はしない。しーちゃんと一生添い遂げるためならわしは神も悪魔も両方踏み潰して前に進む。もう離さないと誓ったのだから。今の日本の法律上、三親等までの傍系血族は結婚できない(義理の兄弟は別)。だが、姉が弟の子をもうける事を禁止する法律は、無い。


7.始めてって気がしない見知らぬ人たちへ

「でかいのぉ・・・・。」

しーちゃんって意外とお嬢様なんやあ・・・・いやいや、ここで怖気づいてどうする。前に、進むと決めた。二人のために。どんな結果になろうとも。

・・・・・・・・。

「・・・・どちらさまかな?」

しーちゃんのお父さんは・・・・ホントに怖ぇー。ヤ○ザだなんてしーちゃんが大げさに言っているだけだと思っていたが、ヤ○ザ顔負けやで? これ。100人中何人がこれで民俗学者って信じるよ。一度見れば二度と忘れないだろうこの顔。悲しいかな不安は半ば絶望へと変わる。

「・・・・?」

何も言わないわしをいぶかしげに見るしーちゃんのお父さん。怪しまれるとまずい。覚悟を決めて、名を名乗った。

「わたくし、桜坂和義と申します。」

「・・・・? な!?」

しばらく言葉を失っていたお父さんだったが、目を閉じて少し考え事をした後、何も言わず居間へ通してくれた。

「今、家内が出かけていてね。何のおかまいもできないが・・・・。」

「いえ、そちらの方が都合が良いですから。」

「?」

「あ、すみません。・・・・あの、この戸籍抄本を、見ていただけますか。」

「さくらざかかずよし・・・・君の戸籍抄本だね、そして・・・・父の欄に、私の名前が書かれてある。」

「不躾ですが・・・・あなたは、わたくしの父親なのですか?」

「どうかな。その・・・・同姓同名の人なんじゃないのかい?」

「それはありません。」

「なぜ?」

「あなたを見て確信しました。」

幼い頃のかすかな記憶。そう、会えばすぐに分かる。わしは、この人を知っている。子供の時、いつだったかは曖昧だが、わしはこの人を見た事がある。お隣の、ヤマサキヒロシさん。その横で幼子を抱え、幸せそうに笑っていたおばさん。覚悟は決めたつもりだったが、こう現実を目の前に突きつけられると、悔しいかな、やはり自分がイヤになる。なぜすぐに気づかなかったのか。取り返しがつかなくなる前に・・・・。しーちゃんは・・・・しーちゃんは、わしの・・・・。

「すまない。意地が悪かったかな。・・・・そうだな、どこから説明したものか・・・・。」

お父さんはまた目を閉じてしばらくの間うなっていた。

「まず知りたいだろうから、結論から言っておこうか。私は、君の父親ではない。」

「! では、これは!?」

「まぁ落ち着いて聞いてくれ。私も、少し話を整理しながら説明していきたいのでね。少し時間がかかるかも知れないが、君は全てを知る権利があると思うから、焦らずに最後まで聞いて欲しい。」

「・・・・はい。」

「桜坂家・・・・というのは、旧家ではあったが、その、力が強い分だけ人から恨みを買う事も多かったようでね。」

お父さんは、時に考えこんで、時に苦い顔をしながら、忘れたいだろう話を、最後まで聞かせてくれた。Z県の、田舎に伝わる、呪われた慣習。権力と、羨望と、妬み。神にささげられる契りの儀。その時に起こった「桜坂家への逆襲」。憂さ晴らしの慰み者になり身篭りながら、桜坂家から捨てられた女。そして・・・・その子供の本当の父親は、誰なのか、分からないという事。

「・・・・あの時、君のお母さんは酷く錯乱していてね。そうだな、君を、私の子供だと、思い込みたかったのだろう。認知してくれと言い出してね。私は、家内とも相談して、その話を受けたんだ。」

「あの・・・・それで、その、失礼を承知でお聞きしますが、それで、あなたがわたくしの父親ではない、というのは。」

「・・・・つまりだ。君はもう子供では無いからはっきり言うが、私は君のお母さんを抱いた事は無い。」

その言葉にわしは安堵のため息をつく。言葉の真偽は分からないが、信用できると確信している。父親ではなかった。しーちゃんは、わしの異母姉ではなかった。良かった。本当に良かった。失わずにすんだ。大切な、愛しい人を。失うかも知れないと思うと、本当に怖かった。もう一度、深くため息をつく。気がつけば目にはうっすらと涙が滲んでいた。が、お父さんはその意味を誤解したようだった。

「和義くん。どうか気を落とさないで欲しい。例え父親が居ずとも、君はこうやって立派に成長したじゃないか。」

「いえ、その、すみません、そうじゃないんです。」

「どういう事だい?」

もう、サイコロは振り出された。お父さんは、正直に、誠実に、こんな、どこの馬の骨か分からない挙動不審な若造を信用して、ここまでの話をしてくれたんだ。ここまで来て、本当の目的を言わずに去るのは、申し訳ない気がする。何て言おう。「あなたは、わたくしの父親ではありませんでしたが、お父さんと呼ぶ可能性が無いとは言い切れない、と申しましょうか。」悪くない気がするが、これはやめとこう。こんな持って回った言い回しはしたくないし、順番が違うな。しーちゃんを置いてけぼりにしてはいけない。では・・・・。

「あの、こういう形でお会いすることになったのは本当に心苦しいのですが。・・・・そうですね、あの、わたくし、実は今、関東にあるN大学という所に通っておりまして。4回生です。」

「な!? 和義くん・・・・君は・・・・。」


「またお邪魔する事があるかも知れませんが、その時はよろしくお願いいたします。」

「私は君が気に入ったよ。君だったらこの先の人生どんな事があっても乗り越えていけるだろう。その・・・・私には娘が一人居るんだが・・・・もう大学生なんだが誰に似たのか甘えん坊でね。よほどしっかりした人じゃないと嫁に貰ってもらえないんじゃないかと心配するほどだったくらいでね。」

「心配「だった」とは?」

分かってて、聞き返す。お父さんも、分かっていて、直接的な表現は、しない。わしとお父さんは、しーちゃんに紹介してもらって、そこで初めて会う事になるのだから。

「ああ、「だった」。もう安心しても良いかと思ってね。」

「きっと、素敵なお嬢さんでしょうね。普段は、しっかりした人なんだと思います。」

そう言えば、しーちゃんがわし以外の男にべたべた甘えているのは、付き合う前からも見た事はない。いつから、しーちゃんはわしを慕ってくれていたのだろう。そう思うと、少しだけ心が痛む。けれども、幸せな痛みだ。

「ははは、いや、まぁ、自慢の娘だよ。」

「はい。ではこれで失礼します。」

「ああ・・・・良ければ、また、来てくれたまえ。その・・・・君のお母さんにもよろしく伝えておいてくれたらありがたいな。」

こうして、わしの人生最大のサスペンスミステリーは幕を閉じた。


大分を後にして家に帰る途中、わしは母に電話をかけた。

「和義? あの・・・・お母さんね・・・・。」

「お母んよぉ。わしは、今まで22年間生きては来たけどのぉ、人生っちゅうんは割りかし幸せなもんやないんかのぉと思うで。」

「和義?」

「いや、つまりや。その、わしは、生まれてきて良かったのぉと、そう思う訳やがな。」

「・・・・和義・・・・。うう、ごめんね。ありがとう。」

「ああもおええがな、何でもないっちゅうねん。ほな切るけんの。ああそうそう、今度またそっち行くかも知らん。ほなの。」

プツ、ツー、ツー、ツー。

そうだ、わしが幸せになるためには、わしだけが幸せになるのでは、足りない。足りなかったなら、補えば良い。今からでも、それは遅くないのだから。

・・・・さて、それはそれとしてまた一つ大きな問題が。着信履歴100件(溢れたもの多数と思われる)、新着メール311件。場合が場合ならストーカーやろこれ。まぁ・・・・何も言わずに飛び出して2日間も音信不通にしたもんなぁ・・・・。さてさて、どうやって切り抜けるか。腹案も無いことも無いのだが・・・・さて。


「しーちゃーん!」

「カズー!」

「しーちゃーん!」

「う、うう、うぐ、ぐす、ガズーどバガー! うえええええええ、えええええんえええええん!」

「ただいま。しーちゃん。その・・・・ほんとにごめん!」

「バガー! バーガー! うち、うち、本当に捨てられたんかと、うええええええええええええん!」

とにかく謝ってとにかく抱きしめてとにかくあやす事に専念。思ったよりかは早く機嫌を直してくれそうだ。後は、この、とどめの一撃で・・・・。ごまかす、というか、煙に巻く、というか。コイツにこんな目的を含めるなんて事はしたくなかったんやけどなぁ。

「あの、その。はいこれ。」

「あううううう、うええええ、えぐ、えぐ・・・・何? これ。」

「指輪。あなた欲しがってた奴。」

「え? え? なんで?」

「やけんそういう事でしょうが。あの、しーちゃん。これからわしら、卒業して、就職して、それで、も少し先に、その、わしと結婚してください。」

「え? えええ!?」

「それでな、その、うちの親にも紹介せんといかんし、ご両親にもご挨拶に行きたいけんな、そや、今から親御さんに電話してもろてやな。」

「ひえぇぇぇ!?」

「ほらほら、電話電話。」

「えううう。本当に? ううう。分かった。・・・・・・・・。・・・・・・・・。あ、お父さん、しーちゃんです。あの、あの、実は、その、紹介したい人が居てね。」

「しーちゃん、変わって。」

言うが早いか、わしはしーちゃんから携帯電話を奪い取る。

「あ、もしもし、あの、わたくし、桜坂和義と申します。いやぁ、こうやってお話するのはもちろん初めてですけど、わたくし、なんだかお父さんとは初めてという気がしませんね。はい、ええ、はい、そうです。はい、そうですね、近々ご挨拶できたらと、はい、ええ。ふふふ、お会いするのを楽しみにしております。はい、では失礼します。」

プツ。

「@*$%&!」

「何その顔。どうしたん? しーちゃん。」

「だだだってだって。なん、なん、何が起こってるのか。」

「しーちゃんやって言うたやんかー初めて会うた時。初めてって気がせんって、な。」

事も無げにそう言って、わしはくすっと笑う。物語は、良いことばかりじゃ、成り立たない。けど、最後くらいは、ハッピーエンドが良いよね、なんて、都合が良すぎるかも知れないけれど。

~完~