起こらなかったハルマゲドン

西暦2111年、世界は核の炎に包まれた。後に言うハルマゲドンである。翌年、世界政府が誕生、各国の人口を厳密に管理するため、世界戸籍制度を導入した。日本も国名をヤマトと改め、以後400年あまりヤマト朝廷が国を支配していた。西暦2523年、人類は人類によって常に管理されつつ、最先端の技術と旧来の技術が融合した世界で穏やかに生きていた。安穏と過ごしているマサフミに思いもかけぬメッセージが舞い込んできたのは、そんなある日の事だった。

登場人物紹介

マサフミ・アスマ:
元ヤマト国軍近衛兵騎士団「ガーディアン」の一員。ガーディアンは地獄のような訓練を受けた最強の戦士である。現在は退役し割と気ままな生活を送っているようだ。

ユウコ・イタミ:
若い考古学者。ハルマゲドン以前の、特に2000年代のメカに目が無い。

東 清彦(あずま きよひこ):
2025年から来たという科学者。本当なのか?

東 新(あずま あらた):
資料ではハルマゲドンの直前にタイムトラベル理論を完成させたと報道された事が記録されているが、ハルマゲドン以後の消息は不明。


1.

ラジオから流れていたモーツァルトに突然妙な雑音が混ざったのは、5日前の昼過ぎだった。ざざー、ぴ、ざざー、ざ...ello. hello. This is Voyager. ざざ ... hello. I'm back to the earth....ざざざ~ざぴーがー。何を言っているかよく分からないが、どうも古い英語のようだ。そう、ハルマゲドンよりも昔。なぜそんな事が分かったかと言うと、今オレの横には考古学者が一人居るからだ。


例の古代英語を解読するに、ヴォイジャーなる何かがもうすぐ地球に落下するらしい。オレはヴォイジャーとやらの着陸予定地点に居る。なぜかは知らん。それは今オレの隣ではぁはぁ言っている一見危ない考古学者に聞いて欲しい。ユウコ・イタミ。ユウコというのは優しい子という意味なのだそうで、確かに誰にでも優しい女の子だ。が、考古学の事となると前後不覚最強最悪の獣と化す。ああ、あと、食事の時。見た目は少女だが、精神は幼女であ ガツン! な、なんだ!?

「なんかいまムカつく想像したような気がする。ちなみにあたしは21歳だかんね。次何かあったらパワーハンマーじゃなくてバイオカッターが飛ぶわよ。」

おお痛てぇ、頭の後ろに大きなたんこぶができてやがる・・・・触らぬ神にたたりなし、くわばらくわばら。とにかく、ラジオから流れてきた古い英語に興味津々であるユウコに無理やり連れられてオレはここに来た訳だ。もう3時間ほどオアシス一つ見えやしない砂漠で来るとも限らない客人を待ち呆けている。

「来た! ほんとに来たよ! ねぇ、マーくん! 来た! すごーい!」

・・・・確かに、空に点が光ったかと思うと見る見るうちに影が大きくなって・・・・うわぁ・・・・見たことの無い宇宙船だな。宇宙船というか、ただの宇宙遊泳カプセルだ。こんなので単身宇宙に飛び出すなんて自殺に等しいぜ。さて、どんなマヌケかとくと拝ませてもらうとするか。

「わああ・・・・え? きゃー! ここに落ちてくる!」

「だな。」

言うが早いか、オレはユウコをかかえあげ、横に50mほど飛びのいた。直後、例の宇宙船が、さっきまでオレたちが居た所に打ち付けられる。ずずーん・・・・。うわ・・・・こりゃあ、中の人間(?)は死んだな。間違いない。

「ああああああ! 壊れちゃったようー。もー! マーくんの馬鹿! 落ちてくるのを受け止めないと壊れるでしょう!」

「・・・・ムチャ言うなよ。いくらオレでもあれは受け止められん。」

「嘘! できるじゃん!」

「いや、確かにそれ自体はできるけどな。」

確かにあのカプセルならせいぜい10トンと言った所だろう。落下速度を加味しても15トン程度の重圧。オレは20トンくらいまでのものなら受け止める事はできるのだが、今の場合、そうすると今度はユウコをかばいきれなくなる。別に、怪我をさせたくない、守ってやりたいなどと思っている訳ではないが。ただ、それを言うと図に乗るので言いたくないだけだ。こいつはなぜかオレがこいつにホレていると勘違いし、その想いをもてあそぶ悪女とやらを演じているらしいのだが、別にこっちはこいつに興味ない。何を言っても「うそうそ、好きなくせに。」の一点張りで、もう相手するのも疲れたのでどうでも良いのだがな。

そうこうしているうちに爆煙がおさまってきた。ユウコと二人落下地点に歩み寄る。

「バラバラだね。」

「木っ端微塵だな。」

「これ、キンゾクだよ。」

「ほう、これがか。・・・・ずいぶん硬いな。だから落ちた衝撃で壊れたんだな。」

硬いものは衝撃に耐えるか壊れるかのどちらかだ。今の時代、乗用の機械は全て柔らかい物質で出来ている。

「うわわわ~。すごいよこれ。・・・・う~ん。間違いないわ、セイレキ2000年前後の電子回路だぁ。」

「ハルマゲドンの100年前か。動くのか?」

「ん~~・・・・完全に壊れてるね。あれだけハデに落ちたもんねぇ・・・・あ~あ、完動品ならめっちゃ高く売れたのになぁ。せめて通電くらいすればなぁ。」

「ん? 直せないのか?」

「そりゃ動くようにはできるよ。回路が単純だもん。でも、私というか今の技術で直すと価値が無くなるの。マニアが欲しいのはあくまでもアンティークとしての完動品だもの。あああもう! くやしい!」

「なんだ、こんなとこまで来たってのに骨折り損かよ。」

瞬間、オレは背後に気配を感じ、再びユウコをかかえあげて横に飛びのいた。何だ? 本当に突然表れた? こんな近くに来るまでオレが気配を感じないとは・・・・ヤバイな、ユウコを守りきれるか? オレはユウコを抱いた腕に力を込める。・・・・と、

「きゃー! 何? 得るものが無かったからってこんな場所で私を襲おうっての? 最低よ! 女に優しくないマーくんなんて嫌い! 初めてなのにー! こんなとこじゃイヤー!」

「ばか! 暴れるな! ・・・・誰か居る。」

人間? ・・・・いや、少し違う。人間の男に似ているが。構えているのは、銃か? 銃のような・・・・何か。やっかいだな。銃ごときであれば問題ないが、正体不明の獲物だ、得体が知れない。見た感じはずいぶんと貧相だが・・・・やはりキンゾク製なのか? 太陽の光がそのままこちらに反射してぎらぎら光っている。

「wa, wanna water....」

何だ? 何を言っているのか分からんが・・・・少なくとも好友的には見えない。オレはユウコをかばうように身構える。

「古代英語だ・・・・本物の古代英語だ・・・・喉が渇いてるんだって。飲み物が欲しいって言ってる。」

「It's too cold... What happened? The earth wasn't blue. I saw... gray, gray planet in complete darkness!」

「う~ん。彼の言う通り、ハルマゲドン以前は地球って青かったそうよ。でもね、今、この星は灰色よ。全てが灰色。ここは灰色の世界なの。ここから空を見ても灰色。宇宙からここを見ても灰色なの。」

「What do you say!? where's here!? what time is it now!?」

突然わめきちらす男。目は血走り、顔面は蒼白で全身ぶるぶる震えている。必死だな。今にも襲い掛かってきそうだ。ユウコに手を出させる訳にはいかない。

今のうちに・・・・殺すか? オレにこいつが殺せるか? こいつにオレがかなうのか? ・・・・何を考えている? オレは世界最強の戦士。こんな貧弱そうな奴・・・・く、殺し方をイメージできない。こんな事は初めてだぜ。どうする? 何も思いつかない。このままでは・・・・。

「あれは古代の銃ね。科学爆発物の圧力でキンゾクの塊を前に押し出して攻撃するの。とにかく何とか会話ができないかしら。ええと・・・・Easy, easy, mister. Don't shout please. we are not your enemies. I will take something to drink to you. wait for minutes.」

ユウコが何か言い、男は言葉が通じた事に安心感を覚えたのかほっとした面持ちで銃をおろす。やはりただの民間人か。気を緩めても銃口を外すべきじゃない。襲ってくれって言っているようなものだぜ。

「この人、きっと宇宙船に乗ってたのよ。生の古代英語だなんて。」

「あの衝撃で生きてたってのか?」

「そうみたいね、理屈は調べてみないと分からないけど。ね、スペリオルミールをあげても良い?」

「ああ、良いぞ。」

「ん、ありがと。マーくん大好き。」

スペリオルミールは非常食の中でも味も栄養も満腹感も最高級で、しかも固形にも関わらず水分補給までできる。そのぶんお値段も最高級だ。このオレでさえ何個もは持っていない。ユウコはやはり優しい子だ。安心させるために今持てる最上の物を与えようとする。もしこの男が本当に宇宙船から投げ出されたのであれば、この男は500年前に生きていた男で、その時代から500年後の、言葉も通じない世界に一人ぼっちだという事。不安でしかたないだろう。

「Here you are. it is.... meal in this time.」

ユウコは両手を前に出し、手のひらにスペリオルミールを乗せてゆっくりと男に近づく。何も仕掛けていないという意味。だが、男は、近づいて来た事に警戒したのか、再び銃を構える。オレはとっさにユウコと男の間に割って入ろうとするが、ユウコに静止されてしまった。

「大丈夫だから。今、彼は何も分からないんだよ。何もかもが怖いの。仕方が無いよ。」

言って、男の前で立ち止まる。

「これって500年前の味覚でもおいしいのかしら。... try this. it is taste ... uhm... not bad, at least.」

男は不思議そうにスペリオルミールをつまみ、恐る恐る口に入れた。とたん、男は飛び上がる。

「Wow! How delicious! No meals could ever be! What's this!?」

男は大層気に入ったようで、腹も膨れたのかおおはしゃぎしている。現金なものだ。衣食足りて礼節を知るってな所か。ちなみに、衣食ってのはなぜ衣食住じゃないかと言うと、この言葉を産み出した人々は住処を持たなかったからだと言う。はるか昔、ハルマゲドンの前よりもさらに前、今のシャイナが位置する所は、木と土と石しかなく、そこでは人間は動物を捕らえてその肉を食い生きていたという。遊牧民というそうだ。彼らは食料である動物を追って年がら年中住処を変え、住処を確保するという概念が無かったからだそうだ。まったく、オレたちからは考えられないのんびりした生活だったんだろうな。ユウコに言わせると、彼らには彼らなりの苦しみがあるそうだがな。

「あはは、喜んでくれたよ。」

「そうだな。」

「Oh boy! I'm flying! I've been flying dutchman!? Oh no, I don't wanna die, ha-ha!」

「飛んでった。」

「笑いながら飛んでったな。」

「よっぽどおいしかったのかな。」

「よっぽどうまかったんだろうな。」

「スペリオルミールってジャンプ力が強化されるような成分って・・・・。」

「入ってない。」

「だよね。入ってたとしても普通100mも垂直に跳べないよね。アイツ・・・・なんなんだろう。」


2.

「お、さっぱりしたじゃないか。それだけでだいぶ若く見えるな。」

あの後、高く跳びすぎたのか、頭から落ちてきて気を失った宇宙人(?)。結局ほうっておくこともできず、男をオレの家まで連れて帰り、とりあえずオレのベッドに寝かせた。奴はそのまま2日ほど寝続け、今日やっと目が覚めたからエアシャワーを浴びさせた。ひげそりと整髪を行うボットに驚いて格闘していたが、どっこいうちのボットの中でひげそりボットは最強のファイターだ。男はおよそ10秒でノックダウン。気を失ったままひげをそられ、髪を切られ、エアーを浴びて出てきた。最初見た時は40前後かと思ったが、ぼさぼさだった髪とひげをどうにかしただけで30前後に見えるようになった。

「I need a vacation...」

何を言っているのかは分からんがシャワーを浴びるだけでくたくたにくたびれたようだ。やれやれ、ユウコ、早く来てくれんかな。オレじゃ言葉が通じない。昨夜ユウコはオレの紙に「I can't speak English.」と書き、何か言われたらこれを見せろと言った。

「I'm hungry. Give me something to eat. I wanna same meals given by the little girl yesterday.」

おおおお、何か一生懸命話してきたぞ。慌てて紙を見せる。

「Ah... God damn... Where the girl whom be together yesterday?」

もう一度紙を見せる。男は力尽きたように床に寝転んでしまった。オレもオレでこいつをどうして良いか分からない。待つこと30分、やっと待ち人が来たる。

「おっ待たせ~。来たよ~。パカパパン、ほ~ん~や~く~こ~○~にゃ~く~。」

「・・・なんだ? それは。」

「ん、何でもない。今が21世紀って呼ばれる時代だったらNGだけど、考古学的には今26世紀だもん、OKよ。ちなみにアニメ化されたあかつきには、今のセリフにはノ○゛ヨを要求するわ。ワサビが嫌いって訳ではないのよ。」

こいつはこいつで言葉は通じるが訳の分からん事を言う。

「とにかく、古代英語の自動翻訳ソフトを買ってきたの。高かったんだよ~これ。おかげですっからかん。・・・・これでいいわ。マーくんの補助バイオ回路にもインストールしたから、あなたも彼と喋れるわよ。」

「そうか。おい、ヴォイジャー。さっきは何を言おうとしたんだ。」

「な!? 君は英語を喋れないんじゃなかったのか?」

「今、私たちの中では古代英語と私たちの言葉を同時通訳してくれるの。関係ないけど、私たちの言葉や考えは普段から西暦2000年ごろの日本語に常に翻訳されているのよ。あのソフトは安い、というか国から支給されるもんね。今の政府であるヤマト朝廷としても、古代の日本からは学ぶことが多いって事なんでしょうね。おかげで国立考古学資料館にあるドラえ・・・ムグ! ムグ!」

慌ててユウコの口をふさぐ。こいつは今何かを言おうとした。伏字にしなければ後で困るかも知れない事を言おうとした。

「古代? そうだ。ここはどこで、君たちは誰で、今はいったいいつなんだ?」

「ええと、その前に、あなたはいつ生まれたのか教えてくれるかしら?」

「僕は西暦1997年の7月8日生まれだ。」

「うわぁ・・・・本当にハルマゲドン以前の人なんだ。あのね。落ち着いて聞いて欲しいんだけど、今は・・・・ガイア暦412年。グレゴリオ暦で言えば・・・・111足して・・・・2523年だわ。」

「そうか・・・・計器の表示は正しかったのか。僕は10年間、コールドスリープ状態で宇宙船に乗っていた。その間に地球では500年もの年月が経っていたのか。」

「ヴォイジャーはなぜ宇宙に? 観光か?」

「ヴォイジャーは宇宙船の名前だ。元々は探索船だったんだがな。僕は、東清彦。キヨヒコと呼んでくれ。」

「アズマ? オレの名前はマサフミ・アスマ。オレの事もマサフミで良い。」

「私はユウコ・イタミ。考古学者なの。だから少しは古代英語も理解できたってわけ。」

「そうか。だから僕の呼びかけを聞いてあの場所に来てくれたんだな。本当に助かったよ。僕は10年前に宇宙に飛び立って、一ヶ月ほど前に地球の近くに戻ってきて・・・・そこで宇宙船が故障してしまった。以来、非常水だけで一ヶ月間宇宙をさまよって、なんとか地球の重力に引っ張ってもらえる位置までたどり着いたんだ。その後は無線で呼びかけながら、ふらふらと落ちていった。地上に激突する寸前にパラシュートで脱出さ。」

「パラシュートってなんだ?」

「パラシュートを知らないのか? 袋みたいに布を広げて、空気の抵抗を利用して緩やかに降りるためのものだ。思ったよりも勢いよく落ちてしまったけどね。おかげで少し足を痛めてしまった。まぁ、あの速度で被害がそれだけというのは幸運だったと思うべきかな。」

「それは多分・・・・500年前よりも空気が薄いからだと思うわ。500年前は空気が濃くて、宇宙から眺めると地球は青かったって言うもの。」

「そうか。だからずいぶんと息苦しいんだな。」

「今は高い所から降りる時は、空気抵抗じゃなくて磁力で速度を制御するの。」

「へぇ、SFみたいだなぁ。」

オレに言わせれば今まさにそのSFなんだがな。500年前の人間だって? 本当にいきなり降ってわいた出来事だぜ。未だに面食らう以外の行動が取れないのが情けねぇ。

「あ、そうだ、SFと言えば、マサフミ、さっきの紙を見せてくれ。」

「ん? ああ、これか? これはなんて書いてあるんだ? 見せといてなんだが、ユウコが書いてくれたものなんでオレも知らんのだ。」

「僕は英語が喋れませんって意味だ。へぇ・・・・珍しい紙だな。どこまでも広がるし、指で文字が書けるのか。へぇ・・・・なるほど。ふんふん。ほう・・・・こうなってるのか。」

「インテリジェントペーパーって言って、大体一人一枚持ってるの。これ一枚で人生分使えるのよ。」

「これは・・・・ずいぶん不思議な物質だね。調べてみても良いかな?」

「別に珍しいものじゃないわよ。原理だって常識みたいなものよ。子供でも知ってるわ。」

やれやれ、学者が二人寄ればすぐこうだ。話し相手はユウコに任せて、飯でも食うか。

「・・・・さて、オレは食事にでもするかな。」

「あ! そうだ! それだよ。僕は腹が減って死にそうだったんだ! 昨日のアレ、食わせてくれよ!」

「駄目だ。あれは数に限りがある。昨日はユウコがお前を安心させるために食わせてやったんだ。」

「持ち主はマサフミだけどね。えへへ。」

「そうか・・・・ありがとう、二人とも。この世界では、普段は何を食べてるんだ?」

世界・・・・そうだな。別の時代じゃない。キヨヒコにとってはもうここは別の世界なんだ。

「あれは非常食だ。普通の食事はキューブじゃなくてチューブ食になっている。これだ。ほれ、食ってみるか。」

「歯磨き粉みたいだな。どれ・・・・あ! と。すまない、破けてしまった。」

「な!? なんだって? そんなはずはない、このチューブはオレの力でも千切れないくらい柔らかく強い素材でできてるんだぜ。チューブが古いものだったのか? 仕入先に文句を言っておこう。ほれ、新しい奴だ。」

「ほう・・・・いや、これも充分うまいよ。腹も満たされる。」

「あのね、ディナーって言って、固形物の食事もあるの。それがね、すっごくおいしいの。あれを食べるだけで幸せなんだからほんとに。」

「へぇ、昨日の奴よりもおいしいのかい?」

「うん!」

「そりゃあ是非食べてみたいもんだね。」

「昨日の奴とやらは、スペリオルミールと言って一個が20万イエンする。ディナーは一回で最低でもまぁ100万イエンほどか。今食った奴は一食250イエンだ。」

「民間人の給与所得は新卒の手取りで10万イエンくらいだわね。」

「え!? 若い子の二ヶ月分を、僕は一口で食べてしまったって事かい!?」

「そうなるな。」

「な、なんでそんな貴重なものを見ず知らずの、しかもこんな怪しい風貌の僕にくれたんだい?」

「うまいものを食ったら不安が和らぐとユウコが言ったからだ。お前は昨日見知らぬ世界に急に降り立ち、言葉も通じず、空腹で、怖くて仕方なかったろう。」

その言葉にキヨヒコは一瞬絶句し、次の瞬間泣き出していた。

「・・・・ユウコ・・・・ありがとう。落下地点に居てくれたのが君だったから僕は死なずにすんだどころか、生まれて一番美味い物を食うなんて幸せな思いができた。」

「やだぁ、泣かないでよ。それに、私は言っただけで、実際にあげたのはマサフミよ。」

「マサフミ、何とか働いて返すから。」

「その気持ちはありがたいが・・・・働くも何もお前には戸籍が無い。外へ出たらあっという間に強制収容所行きだ。」

そう、この世界は、人間、というか人口が「厳しく」管理されている。戸籍数は国によって決まっていて、建前上戸籍数以上の人口は居てはいけない。

戸籍台帳に存在しない人間は、そのまま強制収容所という名の奴隷競売所で競り出される。建前は収容だが、無戸籍人口の爆発的増加を理由に、本当に戸籍が無い者は収容所の中で死ねる奴すらほとんど居ない。もちろんほぼ全てが年端もいかない少年少女だ。少年は、主に労働力として、少女は、時として少年も・・・・「愛玩」として、金で買われ人間としての扱いを一生受ける事なく死んでいく。オレもこの目で見たことは一度だけしかないが・・・・食料として買われていく事もある。知ってるか? 人間の肉って、この世のものとは思えない美味さらしいぜ。あいにくとオレは試す気はさらさらない。

戸籍があっても安心はできない。罪を犯した者、怪我・病気・老いで労働力として認められない者もそのまま強制収容所行き。こちらの場合、戸籍の強奪が目的なので「処理」は驚くほど早い。収容された次の日に生きている事はほとんどない。なぜなら、戸籍はバイオ回路として人間の体に直接埋め込まれており、一度取り付けた戸籍回路が体から全部失われると人間は死ぬ。こちらも建前は生まれ来る次の子供たちに戸籍をあけ渡すため・・・・だが・・・・戸籍は金になる。
「人間」が死ぬと戸籍は国の戸籍プール台帳に戻される。本来無償で配布されるべきそれは、金持ちが根こそぎ買っていく。貧乏人は我が子に戸籍も作れず、新たな奴隷を次から次へと産み出してくれる。奴隷がこれまた金になる。奴隷を「刈り切らない」ように、明らかな無戸籍者の集落も「たわわに実る」までは「刈り取られない」し、金持ちばかりに戸籍を売り渡していては奴隷を生んでくれる貧乏人の後継ぎが育たないので、金持ちと貧乏人それぞれに配布する戸籍の量は常に微調整されている。世界で最も難しいナップザック問題だと、ある官僚が裏の会合で自慢げに話していた。
罪を犯すと収容されると言ったが、金持ちは普通犯罪者にはならない。現行犯でなけりゃそもそも警察が捕まえないし、万が一ドジって捕まったとしても抹消される用の戸籍を複数持っているからだ。ニュースでは犯罪者は基本実名報道だが、どうせそれは赤の他人の戸籍。抹消された戸籍をまた買い取って次の犯罪に備える。また金になる。
完全無欠、あらゆる面でお国にとって笑いが止まらないシステムだ。国ごとの戸籍数は毎年年末に開かれる世界会議で決定するが、そんなおいしい戸籍を巡って国同士の戦争まで勃発する・・・・かと思いきやそうでもない。戸籍数が増えすぎると「戸籍の価値」が下がる。国同士の戸籍数調整はいたって平和で良好なもの。戸籍は個人を書類上特定するためのもので、本来、人種・性別・年齢から血縁関係にいたるまでDNAで一発だ。そんな楽で簡単な方法を捨ててまでわざわざバイオチップの開発にいそしんだのはこういうからくりがあるからだ。良いシステムだろ? 考え出した奴は間違いなくオツムの良いキチ○゛イだな。


キヨヒコが今後何をして生きていくかはともかく、いつまでも同時通訳に頼ってはいられないと、時々古代英語翻訳ソフトを停止して今の言葉を覚えてもらう事になった。は良いのだが・・・・そこで初めて分かったのだが、キヨヒコは恐ろしいほどの天才だ。半日ほどでほとんど日常会話をこなせるようになった。ユウコは大枚をはたいたソフトがあっという間にお役ご免になった事に残念がっていたが、そのソフトのおかげで最高の学習ができたからだとオレとキヨヒコに賞賛の限りを尽くされ幾分機嫌を直していた。ちなみに、このソフトは100万イエンするようだ。しばらくは二人とも飯の面倒でも見てやるか。キヨヒコも今のままじゃ奴隷か食料だ。

晩、ユウコが帰り、キヨヒコが寝静まった後にオレは買い物に出かけていた。

「いらっしゃい。ああ、マサフミ。久しぶりだな。今日は何にするね?」

相変わらず気持ちの悪い笑顔だ。セリフから、いかにも場末の闇商人だと思っただろ? これで我がヤマト国の官僚だってんだからヘドが出る。まぁ良い、こんな生き物と長話する気は毛頭無い。

「戸籍、一つ。」

「あいよ、まいどあり。」


3.

「ふあああ、おはようマサフミ、ユウコ。」

「おっはー。」

「・・・・ああ。」

本当に恐るべき語学力だぜ。たったの3日間で、しかも起き抜けの頭で自然に朝の挨拶が出るのか。顔つき体つきが現代人とやや違う(それだって誤差の範囲である)以外は、既に立派な普通の人だ。

さて、オレは仕事にでもいそしむかな。オレははっきり言うと目下プー太郎だ。別に働く必要が無いからだが、たまには気まぐれに仕事をする事がある。どちらかと言えばあまり人がやりたがらない仕事が多い。今のオレに必要なのは、「そのような仕事をしている人々で形成されるコミュニティ」である。彼らは恐ろしく事情通だ。こんな世の中でほそぼそと生きていくには、情報が要る。ちょっと前はけんかの仲裁屋をやっていたのだが、金回りは良いが(オレを雇うことに成功した側が勝つからだ)、色々面倒も多く今はやらない事にしている。最近は色んなところからガラクタをかき集め、それを同業の廃品回収屋に横流しするという事をしている。小銭稼ぎではなく、彼らとの繋がりを作るためだ。オレは力仕事専門だが、これは割と疲れるんだよなぁ。小さなガラクタなら彼らは自分たちで充分集められる。求められているのは、大きな、一つのカタマリで10トンは下らないようなモノである。

「・・・・ところで、昨日まで表に置いてあったゴミはどこに行った?」

「ああ、あれならユウコが捨てておいてくれって言ったから昨日捨てに行ったよ。」

「な!?」

「うん。そう。キヨヒコってすっごい力持ちだよ。マーくんよりもすごいかも。」

「いや! あれはゴミじゃなくてだなぁ! ゴミって言ったけれども! いや、それよりも、力持ちにも程があるだろう! 合計で何トンあると思ってんだ!?」

100トンや200トンではない。オレのような特殊な人間と違い一般人が持ち上げられる重さはせいぜい100kgだ。オレだって最高でも40トンくらいだろう。それに、キヨヒコの筋肉量は、誰が見ても平均以下だ。

「・・・・それで確信が持てたんだが、どうも地球は500年前と比べてかなり膨張しているようなんだ。」

「どういう事だ?」

「空気が薄くなったのもそうなんだけど、地球は500年前よりも重力が弱いらしいの。」

「そう、今から考えたら、僕が落ちてきた時もそうだった。空気抵抗が極端に少ないから、あの時僕はかなりの速度で地面に落ちた。恐らく何も持たずにビルの5・6階から落ちるくらいの速度だ。それでも僕は足を少し痛めただけだった。500年前に比べて地球の重力が極端に落ちている。重力は距離と質量に関係しているから、地球は恐らく膨張しているんだと思うんだ。いや、ただ単に質量が減っているだけという可能性もあるにはあるが、これだけの質量がどこへ消失したのか理屈が分からない。」

「・・・・すまん。オレは肉体労働は得意なんだが、頭を使うのは苦手なんだ。」

「そうだな。マサフミ、僕と腕相撲してみようか。」

「おいおい、やめとけ。オレの腕力は並大抵じゃないぜ? お前のそのひょろひょろな腕だと一撃で折れちまう。」

「まぁまぁ、良いから。ほら。」

「・・・・後悔するんじゃねぇぞ?」

キヨヒコの手をがっちりと掴む。ついでにちょっと握り潰そうとしてみたのだが・・・・。キヨヒコの手はびくともしない。おいおい、オレの握力はビルをまるごと粉砕できるんだぜ。どうなってんだこりゃ。と、キヨヒコがオレの体を握った手一つで持ち上げた。

「な、なんだ!?」

「僕が強いんじゃない。500年前はこのくらいの力では30kgの荷物も手に余るくらい重力が強かったって事だ。君の体つきを見るに、かなり鍛えてあるんだろう。それでも、重力が弱いとこうなる。超野菜の人たちも20倍や100倍の重力で特訓したもんだ。」

まるで赤子を扱うかのようにそっとオレをおろすキヨヒコ。

「話は、ひょろひょろの僕がこの世界ではすごく強いって事じゃなく、重力が弱いって事自体でもない。」

「で、その、何が問題かって話なんだけど。結局どういう事なの?」

「ああ、僕の見立てでは、後10年もしないうちにこの地球は自分の膨張に耐え切れず破裂してしまいそうなんだ。」

「なぜそんな事が分かる?」

「・・・・500年前、僕は学者だった。分野で言えば地学者、あるいは考古学者だろうか。考古学も含めた地球の地質を研究していたんだ。だから、地球の事はよく分かってるつもりだよ。事実、この世界に降り立って4日観察してきたけど、それだけでも既にいくつか破滅への綻びが見え初めている。まず、ここは僕らの時代ではニホンと呼ばれていた場所なんだけど、ここは寒すぎるんだ。重力が弱まっているせいで大気が拡散しているから熱を保っていられない。そもそも日中にしては暗すぎる。太陽光が遮られているんだろう。今後も地球が膨れていくと仮定すると、地球が破裂する前に人類は全て凍え死ぬかも知れない。」

「そんな話、仮説でも聞いた事ないわよ。世界政府の人たちはそれに気づいてないって事?」

「いや、当然気づいているだろう。秘密裏に事態を収拾つけようとしているような動きだ。民衆に知られて混乱を招くと、暴動につながると考えているんだろう。」

キヨヒコにふざけているようなそぶりは無いが、いまいちピンとこない。

「しかし・・・・仮にそうだとして、それに対してオレたちは何をすれば良いんだ?」

「そうだな、昨日の晩ユウコに考古学資料館に連れていってもらったんだけどね。ガイア暦の歴史を見た限り、原因はやはりハルマゲドンにあるんじゃないかと思ってる。」

「キヨヒコってほんっとにすごいの。30分くらいで500年分のニュースとハルマゲドンで焼け残った蔵書を全て読み終えたんだよ。」

「最初ハルマゲドンって聞いて何の話かと思ったけどね。僕の居た時代、かつてキリスト教と呼ばれたメシア教の経典「バイブル」では、ハルマゲドンとはサタン率いる悪魔の軍勢が集結する場所の事だった。なぜ終末戦争そのものをハルマゲドンと呼ぶようになったのかは謎だが、まぁそれはどうでも良い。僕が読んだ蔵書テキストの中に、東新という人の自叙伝があったんだ。ところが、この人は当時のニュースにもよく登場していたんだけど、ニュースで紹介された人生と自叙伝の内容が大きく食い違っていた。それが気になって自叙伝を読み返してみたんだけど・・・・。」

ふぅ、っとキヨヒコがため息をつく。見ると、額には脂汗がびっしりだ。さすがに疲れたのだろう。話の続きはまた明日にして、今日はもう休む事にした。


翌日、キヨヒコの体調は回復していないようだったが、どうしても話を進めたいようで、食事を取りながら話をする事にした。ユウコは今日も朝からここに来ると言っていたが、まだ来ていない。仕方なくオレだけでキヨヒコの相手をする。こいつは話が難しい上に長いからイヤなんだよな。

「・・・・昨日言っていた東新の自叙伝なんだけど、どうもあの本には何か・・・・秘密が隠されているようなんだ。」

「どんな秘密なのか分かってるような口ぶりだな。」

「分かっている訳じゃなく、あくまで推測なんだが・・・・西暦2108年のニュースに、東新がタイムトラベル理論を発見したとある。ところが自叙伝にはそんな話は一切書かれていないし、ハルマゲドンで焼け残った東新の論文も全部調べてみたけどタイムトラベル理論どころかそれの基礎となるような研究に関するものも一つも無かった。それに、本当に理論が完成したのであれば、なぜ今タイムトラベル技術が存在しないのか。ニュースの報道が嘘か、東新の狂言だったか、ハルマゲドンでタイムトラベル理論に関する情報だけことごとく失われたか、あるいは・・・・。」

「自叙伝の中に・・・・隠されている? そんな馬鹿な。」

「ん~、これも、ハルマゲドン前後のニュースから導き出した仮説なんだけど、どうもハルマゲドンの発端はアメリカ合衆国と・・・・日本。この二国が、東新の身柄を巡って争った結果戦争にまで発展した事にあるようなんだ。ニュースが嘘なら、そんな嘘に踊らされて戦争まで起こるかどうか。本人の狂言でも同じ。まぁ、他の理由で狙われていたのかも知れないんだが・・・・僕は、やはりこの人はタイムトラベル理論を完成させたんじゃないだろうかと思うんだ。」

「だが、自叙伝の中では一切触れられていないんだろう?」

「うん、そこで、自叙伝の実物が欲しいんだ。電子データテキストではなく。そこに何かの鍵がある。」

「分かった。手配してみよう。だが、なぜオレがそんなものを手配できると分かる?」

「君はこのヤマト国の軍人だね?」

「元、軍人だ。」

「考古学資料館が使えるだろう?」

「よく知っているな。だが、あそこは民間人であるユウコも使える。と言うかユウコの庭のようなもので、あいつの方が適任なんじゃないか。お前もおととい連れていって貰ったと言ってたじゃないか。」

「ユウコでは無理だし、あの本に目をつけた事がまわりに知れると何か面倒な事が起こる予感がする。あの子が危険な目にあうのは好ましくないだろう?」

「オレが危険な目にあうのは好ましい?」

「この国に、発足してから200年の間、歴代の軍員を列挙しても50名と居ない最強の近衛兵軍、ガーディアン。君は。」

チッ、こいつは本当に5日前に地上に降り立った古代人か? 30分で500年分の情報を得たというのは大げさではないようだな。

「元、ガーディアンだ。」

「うん、そしてそこまで上り詰めたもののあっさり退役。国軍も何も言わずガーディアンである君を手放している。ところで、その直前にこの国の軍隊は一度なぜか壊滅状態に陥った事があるんじゃないか?」

「お前! なぜそんな事まで知っている!」

「当時のニュースを全て総合的に判断した上で推理した。確証は無い。」

「・・・・。」

「つまり、僕が考えるに君だったら何が起こってもあまり問題ないって事だよ。」

こ、こいつの頭は一体どうなってやがんだ。ただの地学者じゃなかったのかよ。とにかく、こいつと議論していると気が狂いそうになる。それに、なぜか逆らえない。言う通りにしよう。資料館へ向かおうと玄関をあけると、ユウコがちょうどたずねてきた。

「ごめんやす~。」

「あ、ああ。オレは今から考古学資料館に行ってくるから、マサフミの話し相手になってやってくれ。」

「ん? 資料館なら私も一緒に行こうか?」

「いや、良い。その・・・・頼んだ。あいつとの会話をこなすにはお前くらいじゃないと駄目だ。」

「ふえ?」

「なんでもない。じゃあ任せたぞ。」


4.

考古学資料館も収容されている国立図書館は世界共通で、国ごとの軍事機密以外は全世界全て同じ資料を見る事ができるし、自分自身のみが参照する用途では複製を持ち帰る事もできる。許可された人間は軍事機密にもアクセスできる。その代わりネットワーク経由での入手は絶対にできず、こうやって本館まで赴かなければならない。

さて、あずま、あずま、あずま、あらた、あらた・・・・東新の自叙伝はなぜか我が国ヤマトのレベル2軍事機密事項だった。レベル0が軍事機密無し(一般開放)、レベル1が当国軍属以外閲覧不可能。レベル2が非将校軍属閲覧不可能。レベル3が少将未満閲覧不可能。さらにその上もあるらしいが。ユウコでは無理だとキヨヒコが言ったのはこういう訳か。しかし・・・・レベル2とは・・・・確かに、この本には何かが隠されている。ちなみに、ガーディアンは准将の上、少将の下に位置付けられているので、オレはレベル2まで閲覧ができる。「あずま」の欄を探していて偶然というか当然のように目に付いたのだが、キヨヒコはやはりタダモノではなかった。考古学資料館に保存されている東清彦の著書は12冊もあり、そのうち4冊がレベル1軍事機密事項だった。論文集の目録を見ると、ゆうに200を超える。あいつは発病でコールドスリープした時30歳だったはず。

キヨヒコは自叙伝がレベル2軍事機密である事(国立図書館の応答システムは、検索した本の閲覧権限が無い場合、蔵書なしと出てくる)、オレは元ガーディアンで、しかも退役したら本来抹消されるその権限を今も保持している事、ガーディアンには無い権限にも関わらずレベル2軍事機密を複製できる事を知っているとしか思えない。一体何なんだ。いや、考えてもしょうがない。とっとと複製して戻ろう。

「複製の申請ですね。参照はマサフミ・アスマご本人様だけですか?」

「ああ・・・・。いや、もう一人居る。というかオレはその人間の代理だ。オレは見ない。」

「恐れ入りますが、参照者に直接おいでいただかないと・・・・。」

・・・・当然か。しかし、ここで参照者に直接おいでいただくわけにはいかない。かと言って複製の不正参照はあっという間にばれてしまう。あれを使うしかないか。オレは、全体が黒色で、ぼんやりと水色の明かりが点っているカードを提示した。

「・・・・すまないが、こういう事情があってな。今、ここで、複製をお願いする。」

「え? あ! はい! 失礼いたしました!」

少々の規約違反は見逃される、オレだけの特権。こんなところでありがたく使わせてもらう事になろうとはな。一度たりとも使うつもりはなかったが。

あれは、3年前。オレとユウコが初めて会った時の事だ。当時、このヤマト国は海を隔てたお隣の国シャイナの要請で、シャイナ反政府ゲリラの鎮圧に乗り出した。今、一時的に活気を失っているものの、当時、ヤマト国は世界有数の軍事国家で、その力を全世界に見せつけるため、ヤマト朝廷は全軍の進軍を決定、圧倒的武力でゲリラをことごとく蹴散らした。任務の完了を目前に控え浮かれていた時、ゲリラ達にとって最後の砦であるバルミアン遺跡の前に一人の民間人の少女が居座っていた。考古学者の卵だったユウコだ。戦争のまきぞえで遺跡を壊させないと、頑として立ち退こうとしないユウコ。ヤマト国軍にしてみれば同朋であるヤマト人が遺跡の中に立てこもる反政府ゲリラを守っている格好になる。軍事力の誇示のため全世界に映像を配信していたものの、あまりにも残虐だという非難が膨れ上がりつつあった世界の世論を気にしていたヤマト国軍にとって、これほどまずい展開はなかった。ヤマト国軍は、遺跡を取り囲み、彼らが心を入れ替えて投降するまでゲリラの監視を続けてまいりますと映像をしめくくって配信を終了。直後、全軍をあげて少女もろとも遺跡の、ゲリラ本拠地の破壊を開始した。お仕事が終わったあかつきには、少女は守っていたはずのゲリラに殺害され、ヤマト国軍はやむを得ずゲリラを一掃した、と口当たりの良い戦果が大々的に全世界に配信される、はずだった。

軍にとって運の尽きは少女の射殺命令をオレに下した事だった。オレは、ガーディアンの誇りとして、丸腰の民間人を射殺する事を拒否、上官命令違反でオレを拘束しようとしたヤマト国軍に対して全力で迎え撃った。最終的に、オレと、もう一人・・・・オレのガーディアン時代の師であるクリス教官を除いて全て死に絶えていた。つまり、絶大なる軍事力を誇りにしていたヤマト朝廷の軍人は、この瞬間総勢2名となっていた訳だ。

結局、ヤマト国とオレとの間で、オレは国の不利益になる行動を取らない、国はオレとユウコに一切干渉しないという条件で合意し、双方はこの事実を歴史の闇に葬り去った。ちなみに、オレがユウコにほれているときゃつが勘違いしているのは、オレがこの時ユウコをヤマト国軍から守り抜いた事に起因する。全然関係ないが、バルミヤン遺跡はバーミヤン遺跡とは別物だ。バーミヤン遺跡はハルマゲドン以前、ヤマトが日本、シャイナが中華人民共和国と呼ばれていた頃、中華人民共和国ではなくアフガニスタンという国に存在した仏教の遺跡群で、バーミヤン遺跡と中国は本来何の関係もないのだがなぜか当時の日本にはバー○ヤンなる中国料理を食わす店があったという。アンタにはバーミヤン遺跡と聞いて中国を思い出さないでいてもらいたいもんだ。


「ほれ、複製してきたぞ。」

「ありがとう、今から読ませてもらうよ。今日は食事は良いから。」

「こら! キヨヒコ! 典型的な研究者の悪い癖だわ! この食事は数秒で済むんだから、ちゃんと食べなさい!」

「あぁ、そうだったね。ごめんごめん。」

「全くもう・・・・。ところで、んねぇんぅ、マサフミぃ~。」

ヤバイ、こいつがこんな態度をとる時は、決まってとんでもない事をねだる時だ。逃げようとあとずさる。ユウコは思いもよらない速度と力でオレの肩をがっちりホールド。

「21世紀はね~、味気ないチューブ食なんかじゃなくって、ほとんどが固形の食料だったそうよ?」

「そうか。」

「・・・・めっちゃんこおいしかったらしいよ?」

「それで?」

「キヨヒコの話を聞いてたら~! ディナーが食べたくなっちゃった~! 私ぃ今日ぅチューブ食じゃやだ~!」

始まった・・・・そう言えばアンタには冒頭で言ったと思うが、こいつは考古学と食事の事となると絶対に自分の意見を曲げない。いや、食事の場合は本当に単なるわがままなんだが。それぞれの暇つぶしにそれぞれをあてがってみたは良いものの、飯の話はするなと言っておけば良かったなんて、いまさらながら心底後悔。まぁ、キヨヒコに言った所でユウコが話題に出せば断れないだろうし、ユウコに言い聞かせるなんてむしろ話題を提供するようなもんだ。これも運命とあきらめ、ユウコをディナーに誘う。もちろんキヨヒコも誘ったが、当然のように「僕はチューブで充分だ。二人で楽しんでおいで。」との事。キヨヒコの監視をしておきたいと思っていたのだが、食欲魔神と化したユウコには何を言っても通じない。


「えへへへへへぇ、おーいーしかったねぇー。」

「・・・・まぁな。」

ま、ちょっと豪勢目に行ったところで、オレにとっちゃディナー代なんてたかが知れている。元ガーディアンの財力を舐めないでもらいたい。時たま気まぐれに廃品回収や尾行調査なんかの仕事をしているが、一生遊んで暮らせる位の蓄えはあるんだ。

「マサフミぃ、好きだよ~、大好き~。」

「ディナーが、だろ。」

「違うよぉ! もぉ! ふんだ! もういい!」

笑ったり怒ったり。忙しい奴だな。


5.

「タイムトラベルマシンを作ろうと思う。」

「へぇ? 一体なんなの? 突然。」

「やはり東新の自叙伝に、その・・・・タイムトラベル理論てのが隠されてたってのか?」

「そうだ。この5日間で得た情報を元にすると、タイムトラベルマシンの作成に全く問題はない。」

「それで2025年に戻るの?」

「いや、僕が向かうのは2110年。・・・・ハルマゲドンを、阻止する。」

「え? ええええええ!? 駄目よそんなの! 歴史が変わっちゃう!」

「歴史を、変えに行くんだ。」

「そ、そ、そんな事して、どうなるか分からないんだよ! 取り返しがつかない事になっちゃうかも知れないんだよ!? 歴史の改ざんなんて許されないよ!」

「改ざんにはならない。なぜなら、こっちの歴史は無かった事になるからだ。」

「そういう事を言ってるんじゃないわよ! ・・・・どうしても、やるって言うの? 今までの、時間の積み重ねは何の価値も無かったって事なの? あなたはそれでも考古学者の端くれ!?」

「む・・・・それでも、このまま滅亡を目前に手をこまねいているわけにはいかない。ユウコは、僕らだけじゃない、地球の、人間も、他の生き物も、みんなが為す術もなく死んでしまっても良いのかい?」

「う・・・・それは。でも・・・・。」

「このままでは・・・・本当に破滅しかない。」

「じゃあ好きになさいよ! もう知らないわ!」

扉を乱暴に開け、ユウコは部屋を飛び出していく。こんな時、仲裁ができるほど頭が良くない自分自身を呪う。

「おい、キヨヒコ・・・・。」

「・・・・それでも、やるしかないんだ。すまないが、今から言うものを手に入れてくれないか。」


「・・・・で、どうなの?」

「作業は順調だそうな。」

「へぇぇぇ、良かったわね。ね、私たちは出かけましょうよ。」

「ええ? おいおい。」

「どうせマーくんなんかここに居たって邪魔なだけよ。いいから、ほら。デートしよデート。」

やはり納得していないのだろう。こいつが強引に話を進めるのは怒っている証拠だ。やれやれ、とりあえずこの話題には触れないように気をつけよう。一時間ほど街を歩き、オレたちは川辺に腰掛けた。

「・・・・ねぇ、本当にこれで良いのかなぁ?」

さっそく来たな。まぁ、当然だろう。こいつの今の興味はこれしかないと言っても良い。どうせオレには気の利いた事は何も言えん。延々と文句を聞きつづけるだけだ。

「歴史はね? 本当に大切なものだと思うんだ。例えば、古い遺跡があるでしょう。それを作った人の心はわからない。そこに思いを馳せるの。ああ! ロマンだわ!」

くどくどくどくど。ユウコは飽きる事無く喋りつづける。よくもまぁこんなに喋りつづけられるもんだ。というか改ざんの是非から考古学のロマンに話が飛んでいるぞ。

「でね、本当に地球が膨れていってるかも分からないし、本当に壊れるかどうかも分からない。なのに今の世界を壊してしまって良いのかな?」

くどくどくどくど。止まらない。

「キヨヒコを・・・・助けたのは間違っていたのかなぁ?」

「な!? おい、お前。何を言ってんだ。」

「実は、古代人ってのは嘘で、タイムトラベル理論ってのの鍵だった例の自叙伝を手に入れるためにマサフミに近づいたのかも・・・・。ラジオの混線だって、キンゾクの宇宙船だって、コールドスリープだって、疑えばいくらでも疑えるもの。」

確かに、あいつはこの世界の情報にさとすぎる。ガーディアン、国立考古学資料館、ヤマト国軍の歴史、なぜか軍事機密である一見何でもない自叙伝。ニュースだけを見たと言っていたし、実際本来民間人であるユウコが自分のIDで他人に閲覧させられる情報は過去のニュースと一般書物だけだ。絶対に軍事機密に、というか軍事機密の存在そのものの情報すら得られるはずがない。それに、この時代にもコールドスリープの技術は無い。500年前にあったというのか?

「・・・・考えすぎだ。ほら、そろそろ帰るぞ。」

「ャだ。もうちょっと。」

「あいつがそんなに怪しい奴なら、一人にしておく訳にいかんだろう?」

「あ・・・・そっか。」

ユウコは軽いパニックになっている。こんな時、何を言ってやれば良いのか。言葉が見つからないまま、オレたちは帰途についた。

ガーディアン時代、オレはクリス教官から、他人を見ればまずどうやって殺すか考えろと教えられた。その次に相手が何を狙っているのか。善悪を見極める前にまず殺す準備をする訳だ。キヨヒコを・・・・殺す? たった一週間前なら、オレはあいつを殺す場面を想像できたはずだ。あれ? いや、できなかった。なぜだか、オレはあいつに手出しできそうになかった。

「・・・・っチィ!」

オレは自分自身が何かにひどくおびえている事に気づき、イライラを募らせていた。

落ち着かないオレたち二人を待っていたのは、見た目は完成しているタイムトラベルマシンのそばに横たわるキヨヒコだった。

「な、なんだ!? 何が起こった? おい! キヨヒコ!」

キヨヒコは気を失っていて、頬をたたいても反応しない。吐血もしている。顔色もチアノーゼに近い。こいつはまずいぜ。

「ユウコ! お前はここで待っててくれ! こいつを病院に連れていく。」

「イヤよぅ! 私も行く! 一人にしないで。」

「む、そうか。じゃあ来い。」


6.

ヤマト国軍病院。オレの顔がきき裏口で入院できる病院で、ガーディアン時代からの顔見知りが多く、口が堅い連中なので安心できる。もちろんやばい実験もばしばしやっているが、犯罪者の命を使って賢者の石なんてものを作ってるなんて事はないのでこれまた安心だ。

「おい、マサフミ。一体全体なんだいありゃ。肉も、血も、DNAも、ウィルスも、みんな500年前のものだ。」

「本当にキヨヒコは500年前の人間なの!?」

「まぁ、それも気になる所だが、とりあえず、無事なのか?」

「ああ、造作もない。なんせ古いウイルスなんで、病院の文献を全部ひっくり返したがな。反DNAと代替マクロウィルスさえ作れば一瞬だ。」

「そうか。」

なぜかほっとする。たかが一介の居候。それもまだ出会って一週間だってのに、入れ込みすぎだぜ。

「ほう? ふふふ、ヤマトの鬼神と恐れられたマサフミ・アスマも、さすがにご先祖様は大事か?」

「何のことだ?」

「お前のDNAに残っている系譜を確認すると、19代前の物があの男と完全に一致する。9000万種の試験でノーミスマッチだ。DNAは絶対に嘘をつかないからな。あの男はお前の19代前の先祖だ。」

「な!?」

「19代前・・・・やっぱり500年前に生まれたっていうのは本当なのね。」

ユウコは500年前にこだわるな。恐らく・・・・疑ってしまった事に心を痛めているのだろう。

「理論上はそうなるな。おい、教えろよ。どんな魔法を使ってやがる?」

「コールドスリープをしていたらしいの。後、ウラシマ現象を使って、宇宙空間をさまよいつつ10年かけて・・・・地球上で言えば500年かけて、時が経つのを待っていたらしいわ。」

「なんだって!? おい、そりゃ本当なのか? コールドスリープなんて体組織の回復が完全にはできないって今の時代ではもう完全に諦められた理論だぜ。それがどうだ、実際に10年寝てましただと? コールドスリープのボットがあるのならオレにも見せてくれよ。ハルマゲドンで失われた技術を発見。こりゃあ全世界を揺るがすぜぇ。」

「残念ながら宇宙から地上に打ち付けられた衝撃で木っ端微塵だ。」

「なんだ・・・・はぁ。おれも世に出るチャンスだと思ったんだがなぁ。チューブでもすすって寝よう・・・・。ああ、頼まれた通りの戸籍は埋め込んどいたぜ。ご先祖様も良い身分になったもんだなぁ。」

そう言って、とぼとぼ自分の医務室に帰っていった・・・・こいつにはタイムトラベル理論の話はできんな。腕は良い医者であり科学者なのだが。

代替マクロウィルスの定着に2時間ほど待ってキヨヒコに面会に行く。代替マクロウィルスとは反DNAで破壊されたターゲットウィルスのかわりに無害な活動を行うもので、用途によってさまざまな行動をプログラミングし、活動させる。急にウィルスだけが破壊されて体全体のバランスが崩れるのを防ぐそうだ。マクロウィルスと言っても、決してとある会社のオフィスソフトウェア上で動作してコンピュータの破壊活動を行う訳ではなく、マクロプログラミングで活動を制御する疑似ウィルスだ。

「う・・・・僕は。」

「ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ型肝炎。今の時代なら一瞬で治る。それに、ここは戸籍が無くてもオレが言えば治療が受けられる。もちろん、ばれたら終わりだがな。」

「そうか。安心したよ。焦って事を運ぶ必要は無かったんだな。500年前、この病気は発病から3ヶ月で死に至る悪魔の病気だった。僕は、この命が尽きるまでに歴史を変えなければと、そう思っていたんだ。」

「それで急いでいたのね。ねぇ、もう時間も出来たでしょう? もうちょっとゆっくり考えてみましょうよ。」

「うん、そうだね。・・・・でも、ユウコ、僕は最終的に歴史を変えるつもりなのは、変わらないよ。」

「そう・・・・うん、分かった。そうだよね。みんな死んじゃうんだもんね。今日ね、キヨヒコが死ぬんじゃないかって、すごく不安だった。一人でもこうなのに、みんななんて・・・・耐えられないよ。」

「僕は、時代を通り越しても、今度は戸籍制度に追い越されて結局短い未来しか残っていないと思ってた。だから、せめてマサフミとユウコの未来を、造りたい。そう思った。そのために、地球を失う訳にはいかないんだ。」

「うん、うん。分かるよ。ありがとう。」

「・・・・あー、ところで・・・・おじいちゃんよ。」

「お、おじいちゃん!? 失敬な、僕は・・・・確かに10年間寝てたから生まれてから経過した時間は40年だけど、身も心もまだ30歳だぞ。」

「いやぁ、あの。どうやらオレはお前・・・・いや、おじいちゃんの子孫らしい。」

「ああ、うん、それはなんとなくそう思っていた。東の姓がハルマゲドンのごたごたか何かでアスマに変わってしまったんだろう。あるいは、系譜の途中で女の子が生まれて、アスマ家と結婚したか。」

「・・・・う・・・・ぷ・・・・くっくっく・・・・ぷぷ、おじいちゃんだって。」

「僕はおじいちゃんじゃな~い!」

「へ、変か?」

「うん、ぷぷぅ。ご、ごめんねぇ。変だよぉ。ノ○゛太とセ○シじゃないの・・・ムグ! ムグ!。」

「そうだよ。今までどおりキヨヒコって呼んでくれよ。おじいちゃん呼ばわりは心外だ。」

「ぷぅ! もーだめー! あはははは! お腹よじれるぅ! おじいちゃん助けてぇ!」

「ユウコまで・・・・もう。」

オレとしては本気も本気で心外なのが心外なのだが、ま、雰囲気が軽くなっただけでよしとしようか。


「・・・・ほお。」

「・・・・これがぁ。」

「そう、タイムトラベルマシンだ。」

病魔との戦いが終わったキヨヒコはのんびり1ヶ月かけてタイムトラベルマシンを完成させた。これで、ハルマゲドンを、起こさなく、する。世界の誰もが被害を受けた、世界の誰もが知っているあの世界戦争を、無かった事になんて、できるのだろうか。

そうこうしているうちにキヨヒコが準備を整えてしまい、出発を明日に控える運びとなった。もう、後戻りはできない。

「マサフミ。行くぞ。いいか?」

「ああ、行こうぜ。」

「気をつけてね。」

期待の人がオレたちならば、不安そうに見つめるユウコに笑顔で応え、オレたちは、現代を離れ過去へはるばる臨む。ハルマゲドンが起こる、ガイア暦が始まる、前。西暦2110年へ。

「ハルマゲドンまで後180日。」

「黙れ。」


7.

「ったく。これなら西暦2108年に行ってその東新とやらがタイムトラベル理論を発表する前にふんじばれば良かったんじゃないのか?」

「過去の修正は可能な限り後ろの時代にしたいんだよ。それに、タイムトラベル理論の話が世に出ないと、今から400年後にコールドスリープから覚めた僕が理論を入手できなくなるかも知れない。タイムパラドックスの危険性が最も高くなるんだ。」

「かと言って、どうする?」

「そんなの、忍び込んで新を見つけて一緒に逃げるしかないだろ。」

「そう簡単にいくかな。やれやれ。」

タイムトラベルマシンは、こっちに来た瞬間お約束どおり壊れてしまった。この時代の重力に耐え切れなかったのだ。正直、オレたちも死ぬかと思った。特にオレは今でもきついぜ。これが超野菜の人種が修行したと言われるン倍重力の世界かよ。なるほど、確かにここで普通に生活できたらあっちでじゃ超人だぜ。

そう、今のオレたちは丸腰の民間人程度だ。もともとハルマゲドン以前の世界では貧弱学者だったキヨヒコは言わずもがな、あっちの世界ではヤマトが誇る世界最強のガーディアンとして名を馳せたオレも、この重力の中では全身の筋肉と言う筋肉がきしみ、10分普通に歩いただけで筋肉が引きつりそうだった。おかげで、こっちの世界にきて数日の間は、二人とも体力作りに追われたって訳だ。

「余計な時間を食っちまったなぁ。ただでさえ当の新はもうアメリカの遊撃兵軍に捕捉されて、日本軍との奪い合いが始まってるってのによ。」

「そうだな。急がないといけない。よし、行くぞ。英語自動翻訳システムは開始したな?」

「ああ。少し翻訳機能で喋ってみようか。あ~あ~、あ~、私だ。今回の指令は、アメリカ遊撃兵に捕獲されているアラタ・アズマという男を無事連れ出して安全な場所に逃げ切るのだ。幸運を祈る。なお、この翻訳は自動的に消去される。・・・・どうだ?」

「・・・・なんでマサフミがそんなネタを知ってるんだ?」

「ん? どんなネタだ?」

「いや、なんでもない。確かにこのミッションはポッシビリティに欠ける。英語で言えばMission Impo・・・ムグ! ムグ!」

「そこで切るな! いや、まぁ全部言い切らなくてよかったぜ。とにかく行くぞ。」


何人かの見張りを倒し、わき道に隠してオレたちは前に進む。お次は・・・・まずいな、4人か。さすがにそうそう簡単には行かせてくれねぇよなぁ。

「これだけの人数を置くって事は、近づいてきてるのか、別の見られたくない事情があるのか、だな。爆弾を使おう。それ。」

言うが早いか、キヨヒコがいきなり小型爆弾を見張りに向かって投げつける。正気か? こんな狭い場所で爆弾を使うとどうなるか・・・・それに音を聞きつけて他の見張りが集まってくるぞ。ん? いや、爆弾じゃない。催眠ガスだ。ばたばたと倒れる4人の見張り。

ガスが収まるのを待って、4人の首の骨を折って止めを刺す。こういう狭い場所でのスニーキングってのは、相手を消せる時に消しておかないと、戻ってくる時に復活していて襲い掛かってくるのが一番厄介なんだ。これも、クリス教官の教え。

「申し訳ないね。」

殺してしまった相手の軍人に申し訳ないわけではない。オレに、あいつらを殺させてしまって申し訳ないと言っているのだ。

「オレは元ガーディアンだ。人殺しが仕事だった。キヨヒコは軍属ですらない。仕方が無い事だ。」

「ん。・・・・行こう。」


「どうやらビンゴのようだな。おい、出ろよ。助けに来た。」

「・・・・。」

「? ん、そうか。ねぇ、君、僕らは軍じゃない。ただの民間人だ。」

「えぇ?」

「えぇ!?」

拘束されていた東新が驚いて顔をあげると同時に、オレも驚嘆の声をあげる。

「シ! 二人とも静かに!」

「キヨヒコと瓜二つじゃないか。」

「そうだ、アラタは僕のひ孫だ。自叙伝の写真を見れば分かると思うんだが。」

「・・・・見ていない。」

「キヨヒコって・・・・僕の事をひ孫って・・・・キヨヒコおじいちゃん? そんな・・・・コールドスリープで宇宙空間に飛び出したって・・・・。」

「だーかーらー! 僕はおじいちゃんじゃな~い! と、とにかく逃げよう。話はそれからだ。」


騒ぎを聞きつけて駆けつけたザコどもをなぎ倒し、何とか逃げ切ったようだ。オレたちは潰れたデパート跡地で休息を取っていた。

「で、一体どういう事なんだい。」

「お前、ずいぶん落ち着いているな。」

「まぁ僕もこの2年間でいろいろな出来事に巻き込まれたからね。タイムトラベル理論なんて危なっかしいものを発表なんてするんじゃなかったよ。」

「紹介しよう。彼の名前はマサフミ・アスマ。歴史によっては東マサフミとなるかも知れない。僕の・・・・19代目の子孫だ。」

「へぇ・・・・という事は、僕からすれば15代目の子孫になるのか。」

「いやいやいや、本当にずいぶんと物分りが良いじゃないか。普通「この東洋人は何を言っているのですか?」ってならないか?」

「僕は変人ですから~。それに、タイムトラベル理論からすれば全ての時代の僕の先々祖々、子々孫々が一堂に会しても何の不思議もない。」

「そうか。タイムトラベル理論を発見したのは他でもない・・・・ええと、アラタ、おじいちゃん。」

「僕はおじいちゃんじゃない!」

「あっはっは! 僕とおんなじ事言ってる。僕らはキヨヒコ、マサフミと呼び合っているから、アラタにもそうして良いかな?」

「ああ、そっちの方がありがたいね。この年でおじいちゃん呼ばわりされる気持ちはよく分かったよ。」

「マサフミが居た2523年の世界では、2110年から2112年にかけて、アラタが体系づけたタイムトラベル理論を欲した日本とアメリカ両国の衝突が、最終的にハルマゲドンと呼ばれる全世界を巻き込んだ核戦争まで発展したという事になっている。僕らはそれを変えるためにアラタを連れ出しに来たんだ。とにかくこれでアラタは回収した、急いで2523年に戻ろう。」

「でも、タイムトラベルマシンは無いぜ?」

「何を言ってるんだ。タイムトラベル理論を打ち立てた人間と、その理論を元にこないだ実際にタイムトラベルマシンを作った人間が居るんだよ?」

「そうか。それもそうだ・・・・うぐ!」

「どうした! マサフミ・・・・あ! あああ!」

な、なんだ!? 体中が引き裂かれる! ああああああ頭が割れる! 脳みそを直接ぶすぶす突き刺されているような感触だ。おおおおオレは死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、のか? ・・・・! あれ? 収まった・・・・。体が・・・・戻ってる? それに・・・・ハルマゲドンは確かに回避されたようだ。子供の頃教育を受けた歴史の中から消えている。それに、オレの体はこの時代の重力下でも昔の腕力になったようだ。ただ、全開という訳ではない。以前の力の半分くらいか。

「これは・・・・。」

「・・・・うん。どうやら、僕が日本とアメリカの両軍から逃げ切って歴史が変わった事による、タイムパラドックスドランクのようだね。やはり起こったか。」

「なんだ? それは。」

「歴史が変わるとその後の歴史も当然変わる。その影響はマサフミの人生をも大きく変える。ひょっとしたらマサフミの存在そのものが無くなるかも知れない。今、歴史が変わった後の心と体に急激に切り替わったんだ。タイムパラドックスのひずみが大きいほどショックも大きくなる。これを僕はタイムパラドックスドランクと名づけた。」

「・・・・しかし・・・・歴史が変わる前の記憶もある。」

「え? ふぅむ・・・・・タイムパラドックスドランクは、歴史を変える事に直接関与した人間が、変わった後の世界では知りえない、つまり新しい歴史上は起こらなかった出来事を忘れ、新しい歴史上起こった出来事を覚えているように急激に変化する事によるショック症状だが、完全には切り替わらないという事か。いや、ううむ、むしろ関与した人間が完全に改変後の歴史に組み込まれない、新旧の記憶、存在位置が混在する状態の矛盾をタイムパラドックスと定義すべきなのか? 少しタイムトラベル理論の修正が必要か。」

「理論なんて後にしろ。それよりもさっさと作って戻ろうぜ。」


さすが、天才科学者のタッグは強力だ。廃ビルの中から適当に集めてきた材料でささっとタイムトラベルマシンを一台作り上げてしまった。こんな凄いご先祖様を持ちながら、なぜオレは体を動かすしかない軍人になっているのだろう。ユウコに言わせると、オレは実は頭が良いという事なのだが・・・・。まぁ、別に軍人になった事に後悔している訳でもないし、学者になりたかった訳でもない。それに・・・・これでハルマゲドンは回避したんだ、もう少し平和な世界になってるんじゃないのか。未来に生まれ育ったオレは軍人以外の人生を歩んでいるのかも知れない。

ところが、2523年に戻ったオレたちを信じられない情景が迎える。

「な、なんだこれは?」

「・・・・状況としてはハルマゲドンよりもひどいな、これは。町じゅうがぼろぼろだ。というか・・・・まさに死の大地という感じだ。人の気配がしない。」

「が! ぐああああああああああああああ!」

「マサフミ!? どうした!? ああ! 体が透けて!」

なんだ? オレが・・・・オレが、消える・・・・オレは、ダレだ? オレは・・・・。オレ・・・・ハ・・・・。

「マサフミが・・・・消えた。ひょっとして、僕がこの世界に来たから? 東家の血が途絶えた歴史になったのか。」


8.

皆さんこんにちは。東清彦です。アラタが子供を設けずに2523年に来た事で、何と、マサフミの存在は消えてしまいました。そんな訳でこの物語はキヨヒコが引き継ぐ事になります。安心してください。マサフミは後でまたちゃんと戻ってきます。ここからのナレーションはキヨヒコの視点で語られる事になります。


突然目の前でマサフミが空気に溶けて消えてしまった。つまり、この未来には、マサフミはそもそも存在しなかったという事。今から2110年に戻り、アラタを置いて戻ってくるか? いや、今はそんな試行錯誤よりも情報を集めよう。

「どうする? キヨヒコ。」

「今から僕ら二人で2110年に戻った所で世界がどうなるか分からない。少なくとも元に戻りはしないだろう。とにかく今の状況を把握しよう。アラタはタイムトラベルマシンを隠してこの近くに隠れていてくれ。」

僕は走った、ハルマゲドンは回避されたのに、なぜこんな事になってしまったのか。人が居たら尋ねようと思ったが人っ子一人居やしない。走る、走る・・・・立ち止まる。ここは! 情報を集めるどころか、ここには全ての情報が集まってくるじゃないか。焦る事はなかった。

「ようこそヤマト国軍考古学資料館へ。戸籍を確認させていただきます。」

う、うかつ。しまった。やはり焦りすぎていたのか。ハルマゲドンは無くなっても戸籍制度は無くなっていないのか。せっかく情報を集めて戦おうと思ったのに・・・・ここで・・・・終わりか。

「照合が完了しました。フミオ・ニカイドウ様。ようこそいらっしゃいました。ニカイドウ様はレベル3のヤマト国家軍事機密情報まで閲覧する事ができます。」

「・・・・え? い、いったいどういう事だい?」

「どういう事も何も、あなたの戸籍IDを照合させていただきました結果です。フミオ・ニカイドウ様。ヤマト国軍第一陸兵団長とはお凄い。」

どういう事だ? 僕は戸籍が無いはずだ。いや、国軍の戸籍照合に間違いがあるとは思えないから、誰かが僕に戸籍を埋め込んだという事になる。

「きっと、君なんだろうな。」

本当に、やってくれる。僕は、今の世界から存在さえも抹消されてしまった友を想う。今、僕にできる事は、全力で彼の存在を元通りにする事だ。

「キーワード:ハルマゲドン。」

ハルマゲドン。古代地球で信仰されていた宗教の経典に記される場所(現在のヘブラユダイアン国にあるメギドン丘と言われている)、か。戦争ではなく本来の意味である場所に戻っている。やはりこの未来にはハルマゲドンは起こっていない。・・・・ここまでは良い、後は・・・・。

「キーワード:2110年から今までの全てのニュース。」

改ざんされた400年分の歴史を再びニュースで振り返る。2112年の核戦争が回避されただけで、核の脅威がそのまま消え去った訳ではない事を認識する。2200年、元の世界よりも88年遅れながらも結局戸籍制度と奴隷制度が開始される。2311年、コウイチ・イワミ陸軍大将、初代ガーディアン拝命、以後、ガーディアン部隊が配置、展開される。2450年、増えすぎた人口を「調整」するためガーディアンによる無戸籍集落の殲滅が行われる。2518年、ヤマトの隣国シャイナで無戸籍の集落が集団蜂起。ゲリラ戦を展開してシャイナ国軍に激しく抵抗。手を焼いたシャイナ政府はヤマト朝廷に軍事協力を要請。
・・・・あ・・・・ああ。・・・・にせん・・・・ごひゃく・・・・にじゅう・・・・ねん・・・・バルミアン遺跡にて・・・・ゲリラとともにヤマト国軍に武力抵抗した元考古学者のテロリスト・・・・ユウコ・イタミ死亡。

「ユウコ・・・・。」

そんな・・・・そんな・・・・まさか・・・・思わず僕は走り出す。

「またのご利用をお待ちしております。」


「キヨヒコ!」

「アラタ! 行くぞ!」

とにかく、アラタを彼の時代に戻し、先にマサフミを元に戻す。でないとユウコが殺される。僕はアラタを2110年の色んな場所へ置いて2523年と何回も往復し、やっとの事で二人が生きている未来を掴み取る事ができた。

「って、キヨヒコ~! こりゃないよ~!」

「アラタ、すまんがハルマゲドンを回避しつつ二人も生きている2523年にするには、君をここで下ろす以外ないようだ。ま、可愛い子孫のためだと思ってこの場所でよろしく励んでくれたまえ。」

「そ、そんなぁ~!」

ここ、太平洋沖、世界地図では表示すらされない。地元の地図にも、無人島として記載されている、人口・・・・見渡した限りでは14名の・・・・小島。幸いな事に、若い女の子も、居る。正直、ここまで激しく歴史を変えて良いのか迷ったが、世界とあの二人を両天秤にかけたら、僕には二人の方が重いんだ。それに、あの二人が居ないと、僕の病気は治っていないし、戸籍回路も埋め込まれていない事になる。タイムパラドックスドランクが新旧半々程度になる事から考えても、過去を動かせばどうやてもタイムパラドックスは避けられない理屈だ。それ自体は小さなものでも、矛盾によるひずみが周りにどんどん広がってどうなるか分からない所に真の恐怖がある。勝手な理屈だけど、そうさせてもらう。


9.

「キヨヒコ、どこに行ってたんだ?」

「っとにもー、心配したんだから。500年前の人間だなんてばれたらあっと言う間に研究所行きよ!」

「二人とも・・・・二人とも・・・・会いたかった。ああ、マサフミ、こんなにたくましくなって。筋肉も前の二倍はあるんじゃないか? アラタもよくがんばってくれたもんだ。」

「アラタ? アラタの名前は知っている。オレの祖先は、南の島の大王だった。アズマアラタ大王。ハメハメハ大王の娘を嫁にめとって、朝日の前に起きていて夕日の後にも寝ずに働き、一代で一つの大国家を築き上げたと、先祖代々親から子に伝え聞かされてきた。」

「・・・・アラタもよくがんばってくれたもんだ。」

無人島に置き去りなんて、よく考えなくても結構酷い仕打ちだよね。そこからタイムトラベル理論の足跡が途絶えて、結局闇に葬られた形になったか。それに関しては結果オーライだな。もちろん、自叙伝自体は残っているから、誰かが気づけばタイムトラベル理論は復活する。まぁ、心配は無いだろう。あの暗号はかなり難解で、恐らく東家の者でないと解くことは出来ない。僕はタイムトラベル理論を封印どころか、全て抹消するくらいのつもりで居る。

今はマサフミの名前もマサフミ・アズマだ。そう言えばどうやってそこからマサフミへの系譜がつながるのか考えていなかったけど、僕のひ孫は想像以上にパワフルだったようだ。ありがとう、アラタ。と、そこに僕の体に向かってマサフミから光の線が走った。マサフミの胸元を見ると、光は水晶のようなものから出ている。

「これは、アズマ家の長男が成人する時に父親から受け継がれる水晶だ。」

言って、マサフミは水晶を手渡してくる。受け取ったとたん、水晶から光があふれ出し、僕の体はその光に包まれた。

「ええと、お久しぶり、かな? 無人島で一人、おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」

久しぶりに見る、アラタの姿。置き去り後15年て所か。年が近いからか本当に今の僕とそっくりだけど、体つきが全然違う。たくましくなったなぁ。

「ここの生活も楽しいし、食い物は美味しいし、何よりも他の国には無い鉱物を山のように発見しました。この蓄像石もここで見つけたものです。おじいちゃんの名前を貰ってキヨライトと名づけました。っとまぁ、そんなこんなで、僕は一国の主に祭り上げられそうな勢いです。本当は2523年に会いに行こうかと思ったんですけど、僕はもうタイムトラベル理論は捨て去りました。きっとキヨヒコおじいちゃんも、同じ思いで居てくれていると信じています。必ず届く事を信じて、このメッセージを15代目の子孫マサフミに託します。僕は人生を充分楽しんでますので、キヨヒコおじいちゃんも2523年での生活を楽しんでください。アラタ。」


結局、地球破裂の危機は無くなり、戸籍制度と奴隷制度は前の世界よりも窮屈な状態で展開されているものの、それ以外の大きな影響は無いようだった。

「ねぇ、キヨヒコ。」

「ん? なんだい?」

「キヨヒコは、病気を治すためにこの時代に来たんだよね? 治ったけど、本当にそれで良いの? やっぱり、治った上で2025年に戻りたいんじゃないの?」

「ん~~~そうだね。そうなんだけどなぁ。今、ここで2025年に僕が戻ったとして、まさかコールドスリープで未来にたどり着いて、病気を治してからタイムトラベル技術まで手に入れて戻ってきましたよ、なんて言う訳には行かない。それこそハルマゲドン・・・・ええと、タイムトラベル理論を巡って核戦争が21世紀に起こってしまうだろう。せいぜい、病気もコールドスリープも実は狂言でしたという事にするくらいだけど、やはり微弱ながら歴史はまた変わる。君たち二人も生きてるし、地球も破裂しない。これ以上、歴史を編纂するつもりはないんだよ。今、地球はここにあって、今の時代は僕の生まれた時代とは違って。あの時代に残してきた家族を思うと心が痛い、けど、いつを生きるかじゃない、どこで生きるかじゃない、僕は、今、確かに生きている。君や、マサフミとね。」

この未来のマサフミとユウコは、ハルマゲドンを知らない。そもそもハルマゲドンが起こっていないのだから当然なんだけど。マサフミは、あのマサフミとは別人と言うか、一度リセットされたと言うか。このマサフミは2110年にも行っていないし、アラタにも会っていない。タイムトラベルマシンも見てすらいない。アラタをあの島に置いて戻ってきた時のマシンはすぐ破壊したし、もう二度と作るつもりはない。それでもタイムトラベル理論の存在を信じてくれるこの二人は、何と言うか、底抜けのお人よしと言うか、まぁ、この二人らしいな。

ともかく、人類は、居る限り進化していく。どんな病気も必ず克服する。血のにじむような努力とともに。時に、暴走を繰り返したとしても。人類が、この地球上にもう少し長く居つづけるための未来は勝ち取ったのだから。

「さて、それじゃ何をしようか。とりあえず、奴隷制度でもぶっ潰しに行ってみようか?」

「いいな、それ。」

「私も賛成! でも、どうやって?」

「うん、きっと今のこの制度はこの国の中枢で・・・・。」

僕が造ろうとし、アラタが僕のためにつむいでくれ、マサフミとユウコが生きていてくれるこの世界を、僕は全力で生きてみようと思う。

~完~